崖っぷち漫画家はエリート弁護士の溺愛に気付かない
 なんて返事をしながら画面を確認すると、なんと増本さんからでさっきより大きく肩を跳ねさせてしまう。
「じゃあ何かが届いたとか? 荷物が重い時とかたまに電話してくれるよね」
「宅配は置き配設定にしてる……というか、増本さんから」
「えっ、担当編集からだったの?」
 私の返事に浅見も驚き顔をあげる。一瞬顔を見合わせた私たちだが、電話が切れる前にと慌てて通話ボタンを押した。

 「ど、どうしたんですか? あっ、澤みのりです」
 動揺しすぎて名乗り忘れた私は、焦りながら名乗る。そんな私の額にはじわりと冷や汗が滲んでいた。
(まさか、私の連載の打ち切りが確定したなんてことは……)
 嫌な想像をし思わずごくりと唾を呑むが、緊張する私とは対照的に明るい声の増本さんの声がスマホの向こうから聞こえてきた。

『実は先生の家の近くで打ち合わせがありまして。もしご迷惑でなければ少し寄っても構いませんか?』
「え、家に!?」
『無理なら全然いいんですけど……』
 直接家にくるだなんて、過去一度もなかったのにと驚きながら浅見の方へと顔を向ける。浅見も私の声が聞こえていたらしく目を見開いていた。
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