崖っぷち漫画家はエリート弁護士の溺愛に気付かない
 部屋からひょっこりと顔を出した浅見が玄関へと視線を送り、私もバタバタと慌てながら玄関の扉を勢いよく開く。すると案の定増本さんが立っていた。

「早いですね?」
「この近くで打ち合わせがあったので。で、これお土産です」
 戸惑う私とは対照に、増本さんは平然とした顔で私に小さな白い箱を手渡す。
「本日は来栖先生もいらっしゃるということで、ケーキを買ってきたので後ほどおふたりで食べてください」
「あ、ありがとうございます」
「あと、早速の修正ありがとうございました。あれで下絵は問題ないので、原稿があがるのを楽しみにしてますね」

 当たり障りのない会話をしながら、そろそろ本題がくるかと緊張しながら増本さんを見あげた。
(打ち切り!? 打ち切りが決定したの!?)
 その私の緊張した面持ちをきょとんとして見た増本さんが、ふはっと吹き出す。

「安心してください、別に悪い話をしたくて来たわけじゃないんで」
「え? そ、そうですか?」
「実は、全然仕事関係なくて」
 仕事が関係ない、なんて言った増本さんに紙袋を渡される。その中は私がお世話になっている出版社の青年漫画入っていた。
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