崖っぷち漫画家はエリート弁護士の溺愛に気付かない
 自身の作業道具を片付けている浅見からそう聞かれ、ゴミ箱の周りに散乱したゴミを拾いつつ私がそう答えた。もうほぼ次話の根底が完成していることに驚いたからか、ぽかんとした浅見が片付ける手を止める。
「え、そんな順ち――」
「う、わわっ!?」
 何かを言おうとした浅見の言葉を遮るように私のスマホが着信を知らせ、驚いて思わず声をあげた。
 原稿に入った時に増本さんからかかってきたとはいえ、普段はほぼ鳴らない電話だ。しかも画面には高尚の名前が表示されており、思わず目を見開いてしまう。
(高尚から電話ってはじめてなんだけど)
 驚きつつ電話を取るか迷う。今ここにいるのがひとりだったならもちろんすぐに取ったのだが、浅見がいることが気になった。しかしそんな私の戸惑いを知ってか知らずか、着信が切れたかと思ったらまたすぐかかってきてギョッとする。

「ヒッ」
「めっちゃ鳴ってるけど……?」
 私があげた小さな悲鳴か、鳴りやまぬ着信音のせいなのか。心配そうな顔をした浅見に、やはり原稿中に感じたあの違和感は勘違いだったのかも、とそう思い直した私は彼女に一言断って電話を取ることにした。
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