怜悧な裁判官は偽の恋人を溺愛する
「ふふっ、可愛い」

 膝に乗せたウサギは、私が差し出したニンジンをハムハムとかじり始める。艶やかな茶色の毛並みを撫でると、柔らかな温もりが感じられた。

「小さいのに、とっても食いしん坊だな」

 一心不乱にニンジンにかぶりつくウサギを見ながら、優流は困ったように笑う。餌用のニンジンスティックが入っていた紙コップは、すでに空となっていた。

「でも、やっぱり動物と触れ合うのは癒されますね」

 ウサギを優しく撫でながら、優流は言った。

 土曜日。私たちは、神奈川にあるふれあい牧場に訪れていた。家から車で一時間ほどの距離だが、少し遠出した方が木下に会うこともないので安心できるだろうと、優流が提案してくれたのだ。

 土曜日ということもあって牧場は家族連れで賑わっているものの、可愛い動物たちとの触れ合いは楽しいものである。

 ウサギの餌やりを終えたあと、私たちは牧場の地図を見ながら歩き出した。

「次はどこにしましょうか」

「じゃあ、ヤギを見に行きませんか? ちょうど、子ヤギがたくさんいるみたいですよ」

 私たちはエサを購入してから、ヤギとの触れ合いゾーンに向かった。
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