怜悧な裁判官は偽の恋人を溺愛する
 ヤギの触れ合いゾーンでは、真っ白な毛並みのヤギが十数匹放し飼いされている。私たちが歩いていると、エサの匂いに釣られたのか、大人のヤギが二匹近寄ってきた。

 草を四角く固めたエサを差し出すと、ヤギは美味しそうにムシャムシャと食べ始めた。

「……って、あらあら」

「おわっ!?」

 見ると、一匹のヤギが背後から優流のシャツの裾を食んでいた。さすがの彼も驚いたようで、振り向いてすぐに声を上げた。

「待て待て、エサならあるから」

「ふふふっ」

 優流は慌てて裾を食べていたヤギにエサをあげるものの、服にはヨダレの染みができていた。笑ってはいけないとは分かっていても、私はつい吹き出してしまった。

「っ、ふふ、ごめんなさい」

「本当に……笑いごとじゃありませんよ」

 とは言ったものの、優流も困ったように微笑んだ。

 大人のヤギたちにエサやりを終えてから、私たちは子ヤギの抱っこ体験ができる小屋に向かった。

「抱っこする時は、必ずお尻を支えてあげてくださいね」

 飼育員に子ヤギの抱き方を教えてもらってから、私は一匹の子ヤギを抱き抱えた。人馴れしており、子ヤギは暴れることなく私の腕の中に収まってくれた。

「高階さん。せっかくなので、ヤギと一緒に写真撮りましょうか?」

「え、良いんですか?」

「もちろん」

 実は花屋のカフェに行った時も、優流は私も写った形でケーキの写真を撮ろうかと提案してくれた。その時は恥ずかしくて断ったものの、今日は自然と頷いていた。

「じゃあ……」

「あ、よろしければ、お写真撮りますよ?」

 そう言ったのは、先ほど子ヤギの抱っこの仕方を教えてくれた飼育員だった。
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