怜悧な裁判官は偽の恋人を溺愛する
「ちょうどもう一匹ヤギちゃんが空きましたので、お兄さんも抱っこして、写真に写りませんか?」

 飼育員は子ヤギを一匹抱き抱えて、優流に見せた。

「俺は別に……」

 優流は断りかけたものの、飼育員に抱っこされた子ヤギは、彼をうるうるした目で見つめていた。

 そんな子ヤギを、優流が無視できる訳もなく。

「……せっかくなので」

「ありがとうございます、良かったねメメちゃん」

 こうしてメメちゃんと呼ばれた子ヤギは、飼育員から優流に手渡されたのである。

「じゃあお写真撮ります。お二人共笑ってください。はーい」

 子ヤギを抱えた私たちは、二人並んで写真に収まったのだった。



「動物の触れ合い体験、面白かったですね」

 私と優流は牧場の一角にあるバラ園に移動して、ベンチで休憩していた。動物との触れ合いゾーンから離れていて人も少なく、バラ園には穏やかな空気が漂っていた。

「ええ。でも、ヤギに服を食われるのは……想定外でした」

「ふふっ、御堂さん優しいから、ヤギも甘えたかったんですよ」

 ヤギ以外の動物にエサやりする時も、優流はやたらと動物たちに懐かれていた。

 ウマにはしっぽを振られて、ヒツジには脚に顔を擦り付けられ。子ヤギに至っては、最終的に優流の腕の中で眠ってしまった程である。
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