怜悧な裁判官は偽の恋人を溺愛する
「一時間も居座ったのに、リップひとつ買わなかったの!?」
バックヤードで、大城店長は呆れたように小さく声を上げた。
「はい……本当にすみません」
木下を見送ったタイミングで、ちょうど遅番勤務の大城店長が出勤して来た。彼女は木下の姿を見るや否や、私に慌てて声をかけてきたのである。そしてバックヤードに連れて来られ、今に至る。
「なるべく時間を短縮できるよう工夫はしたのですが、上手くいかなくて」
結局、どの色のリップを勧めても、木下が納得することはなかった。サンプルを渡して帰らせたものの、雑談をなかなか終わりに持っていけなかったのだ。
「貴女が謝らなくていいわよ。でも……来店のペースも増えてきたし、困ったものね」
木下の購入履歴をタブレットで確認しながら、店長は呟く。
もし、木下が完全に何も買わない冷やかし客ならば、出入り禁止にもできる。しかし木下は、三回に一回ぐらいは何かしら購入するため、そうもいかないのだ。
ちなみに木下は購入するとしても、低単価商品を一点買うだけだ。コットンやパフなど、数百円台のものばかり。時間あたりの売上としても、あまりにも低い。
バックヤードで、大城店長は呆れたように小さく声を上げた。
「はい……本当にすみません」
木下を見送ったタイミングで、ちょうど遅番勤務の大城店長が出勤して来た。彼女は木下の姿を見るや否や、私に慌てて声をかけてきたのである。そしてバックヤードに連れて来られ、今に至る。
「なるべく時間を短縮できるよう工夫はしたのですが、上手くいかなくて」
結局、どの色のリップを勧めても、木下が納得することはなかった。サンプルを渡して帰らせたものの、雑談をなかなか終わりに持っていけなかったのだ。
「貴女が謝らなくていいわよ。でも……来店のペースも増えてきたし、困ったものね」
木下の購入履歴をタブレットで確認しながら、店長は呟く。
もし、木下が完全に何も買わない冷やかし客ならば、出入り禁止にもできる。しかし木下は、三回に一回ぐらいは何かしら購入するため、そうもいかないのだ。
ちなみに木下は購入するとしても、低単価商品を一点買うだけだ。コットンやパフなど、数百円台のものばかり。時間あたりの売上としても、あまりにも低い。