怜悧な裁判官は偽の恋人を溺愛する
 しばらく部屋に、沈黙が訪れる。

 その沈黙を先に破ったのは、優流だった。

「高階さん。もしよろしければ……うちに来ませんか?」

「え?」

 思いも寄らぬ提案に、私は間抜けな声を出す。一瞬、彼が言った言葉の意味が理解できなかったのだ。

「ちょうど使ってない部屋がひとつありますし、うちだとセキュリティも万全だと思います」

「そんな……そこまでしていただくのは、さすがに申し訳ないです」

「いえ。今の状況で高階さんを放ってはおけませんよ」

 そう言った優流は、私を安心させるかのように微笑んだ。

「こういう時は、身近な人間を頼ってください」

「……っ、ありがとうございます」

 こうして、優流との期間限定の同居生活が決まったのである。

 □

 荷物をまとめてから、私は優流と共に彼の家に向かった。まだ不安が完全に消えたわけではないが、優流のマンションに着く頃にはだいぶ気持ちは落ち着いていた。

「狭くて申し訳ないですが、こちらの部屋を使ってください」

 家に着いてから、優流は私を部屋に案内してくれた。

「こんな立派なお部屋……良いんですか?」

 普段は使ってないと聞いていたので、物置きのような雑然とした部屋を想像していたが、室内は整理整頓が行き届いていた。それどころかベッドまで用意されており、まるでビジネスホテルである。

 ベッドがあるってことは……ここに誰かが住んでたのかしら?

 よく見ると、ベッドは薄ピンクの木材と金具でできており、明らかに「女の子向け」である。

 そうなると、思い浮かぶのは……。
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