怜悧な裁判官は偽の恋人を溺愛する
「この部屋は凛が泊まるに使うんですけど、しばらく来ないように言っときますので……高階さん?」

「えっ、あっ、そうなんですね!」

 交際相手と同棲していたのかと一瞬思いかけていたが、そうではないらしい。

「その……凛さんってよく泊まりに来るんですか?」

「頻繁というほどではないですけど、終電を逃した時とかに、いきなり来るんですよ。……人の家をホテル代わりにして、困った奴です」

「ふふっ」

「じゃあ、家にあるものは好きに使ってもらって構いませんので」

「ありがとうございます」

 優流が居なくなってから、私はベッドに寝っ転がった。安全な場所に移動できた途端、緊張の糸が切れてしまったのである。

「あ……ふ」

 ふわふわした布団の感触を味わいながら、私はゆっくりと目を閉じる。

 ピンポーン。

 眠りかけた瞬間、インターホンの音が鳴った。

「!?」

 もしかしたら木下が、玄関の前にいるのではないか。

 頭の中で、そんな不安がよぎる。そんなこと絶対にありえないと分かっていても、身体は強ばって無意識に自分で自分を抱きしめていた。

 バタバタと足音が聞こえてきて、扉が開く音がする。そして話し声がしたあと、扉が閉まる音が聞こえたのだった。

 私は反射的にベッドから飛び起きて、慌てて部屋を出た。
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