月とスッポン      ありのままは難しい

金堂の内部をぐるっと一周まわる造りとなっていて、後陣には色々な年代の仏像が並んでいる。

不動明王が背負っている火焔、大日如来の光背の細かさ。
仏像たちの滑らかさ、力強さ。

これが手彫り。
惚れ惚れする。

後陣を周り終わり、再度見えぬ本像に手を合わせる。

暗かった金堂から外に出ると、眩しさからかふぅと息を吐く。

「堪能出来ましたか?」

御朱印帳を抱きかかえた大河に聞かれたくないと思ったが、それはそれなので言葉を飲み込む。

「これだけの仏像たちを守り抜いた三井寺の僧侶たちに感謝と敬意を払って」

金堂に向かって大きく頭を下げる。

「《三井寺は、比叡山延暦寺との対立、源平の戦い、南北朝の動乱、豊臣秀吉による闕所など、歴史の中で数十回も焼き討ちや損害を受け、修復と再興を繰り返してきたことから、【不死鳥の寺】と呼ばれています》」

ゴーンと心地よい鐘の音が響き振り向く。

「「三井の晩鐘ですね。《日本三名鐘の一つで、その音の美しさから【姿の平等院】【銘の神護寺】と並んで【声の三井寺】とも言われています」

私の手を引きながら
「私たちも鳴らしに行きましょう」
と引っ張られる。

「えっ、やですよ」

と抵抗を試みるが、日本三名鐘と言われれば近くで見たいと思いのが人の常。

「せっかくですから」
「大河さんがやればいいと思います。私はそれを近くで聞くだけで十分です」

立ち止まり大河が振り返る。

「自分で鳴らしてみたいとは思わないのですか?」

だから、首を傾げるな!
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