月とスッポン      ありのままは難しい

「変な音になったらやじゃないですか!」
「そんな事を気にしていたのですか?」

「えっ、やじゃない?」
「やってみないとわからない事を考えても仕方ありませんし、それはそれでいい思い出になるかと」

そう言われれば、その通りなのだが。

「ご一緒になさったらどないですか?」

やるやらないで押し問答をしていると優しく「早くしろ」と促される。

「そうしましょう」

名案だと私の手を重ね、撞木を何度か引き勢いをつけたと思ったら、大河の力が抜けるとその勢いのまま撞木が鐘をつく。


頭の芯まで響くゴーンという鐘の音。心地よい残響が痺れとなって体に残る。
放心状態となっている私の手を引き、お礼をして楼鐘を後にする。

「大丈夫ですか?」
「大丈夫ですけど、初めての体感です。鐘の音を間近で聞くと凄いですね」

覚醒した私は、自分の手に残る感触を噛み締めながら興奮で早口になる。

「茜の初めてを一緒に体験出来て光栄です」

どさくさに紛れてなんて言い回しをするんだ。
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