月とスッポン      ありのままは難しい

スリッパに履き替え中に入っていく。
静まり返った空調の効いた館内に展示品をゆっくりと見ていく。

金色の襖絵の前に立ち止まれば

「《狩野光信の【四季花鳥図】ですね。
残念なことに彼の作品の多くは戦乱で失われてしまい、今日伝えられる光信の代表作とされるのが、この三井寺勧学院の障壁画なのです。他にも有名なのは他、京都高台寺蔵【秀吉像】でしょうか」

私の真後ろに立って耳元で解説が始まる。

近くないかい?
と振り向けば、しーと人差し指を口に当てている。

なんだか色っぽくて前を向く。

「《光信は、桃山美術を代表する天才絵師・狩野永徳の長男として生まれました。
若い頃から父永徳と共に織田信長の安土城や豊臣秀吉の聚楽第に画筆をふるいましたが、父の永徳の豪放な作風とは対照的に、繊細で優美な画風を特徴で当時の武将達の好みとは合わず不評だったそうです》」

ガラスに映る大河を見る。目があった。

「《光信の父親である永徳は、足利義輝以外にも時の権力者である織田信長や豊臣秀吉の要請に応え、安土城・大坂城・聚楽第に障壁画など数々の作品を生み出したものの、多くは相次ぐ戦火により失われてしまいました。
 狩野永徳の晩年は、押し寄せる仕事の依頼で多忙を極めており、死因も過労死と言われています。
遺作は、豊臣秀吉より制作を要請されていたとされる【檜図屏風】です》」

偉大な父親と常に比べられる息子。
職種は違えど、共通する思いがあるのか?
私にはわからない世界。

ただこいつは、偉大な父親と肩を並べている気がする。知らんけど。
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