月とスッポン      ありのままは難しい

振り向けば大河が間近で微笑んでいる。

なんて顔で微笑んでいるんだ。
これはあかんやつだ。
これを見た女が、いや全人類が惚れてしまうやつだ。

勘違いしてしまう。
そう、勘違いだ。憧れの狩野派の作品を間近で見て微笑んでいるに違いない。
そうだ。

「あっ、これです。これが見たかったんです」

背後手に拘束された状態で、一枚の書簡の前で立ち止まる。


「《9世紀に唐王朝の役所が発行した【過所】と呼ばれる旅行証明書。いわゆるパスポートですね。
智証大師円珍が、仏法を求めて入唐求法、唐に留学したときに携行したもので、【過所】の実物は、この2通しか現存しない世界的に貴重なものです》」
「これだけ」

「これだけです。《【越州都督府過所】は、855年 大中9年3月、円珍が越州 現在の紹興の開元寺から唐の都・長安に向かうときに越州都督府が発給したもの。
2通目の【尚書省司門過所】は、同年11月に長安から天台山に戻るときのもので、中央官庁である尚書省が発給したものですね》」
「読めるんですか!」

驚いて振り向いて見れば、恥ずかしそうに「いえ、これが見たくて検索しましたら、書いてあるサイトに辿り着きました」
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