月とスッポン      ありのままは難しい

「あの井戸みたいなのなんですか?」
「あれは井戸ではなく、【比良明神影向石】です」
「比良明神。あぁ、えっと良弁が石山寺に来た時に老人に化けてた神様」

人差し指を動かしながら言えば、また微笑まられた。

もしかして話を聞いてないと思われてたのか!
人の話をちゃんと聞ける子だぞ!
すぐ忘れるけど、ちょっと前のことぐらい覚えとるわ!
解せぬ。

「そうです。
《良弁が夢で神託を受けこの石山の地を訪れると、岩の上で釣りをしていた老人が比良明神でこの時に座っていた石こそが、この【比良明神影向石】だそうです》」
「ほぅ」

なかなかのか傾斜の階段を登って行く。

中間にある祠を見るフリをしながら息を整える。

「龍蔵権現社という事は龍神の闇淤加美神を祀っているのでしょうか」
「でも、勝軍地蔵って書いてありますよ」

「という事は、《坂上田村麻呂が東征の際に戦勝を祈願して作ったのが始まりとも、京都の愛宕山に祀られていた愛宕権現が、神仏分離令によって勝軍地蔵として祀られるようになったとも言われています。
どちらにしても勝軍地蔵は、武将や武士の戦勝祈願から、現代の勝負事の必勝祈願まで、幅広い信仰を集める地蔵菩薩です。その勇ましい姿と、慈悲深い心で人々を救うという二面性を持っています》」
「ここがかつて戦場だったって事?」

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