月とスッポン      ありのままは難しい

なんだか悪意を感じる言い方だけど、聞かなかったことにしよう、うん、そうしよう。

「《石山寺自体は全山炎上するような兵火には遭わなかったため、建造物、仏像、経典、文書などの貴重な文化財を多数伝存しているそうですよ》」

礼拝堂のえんがわから見える景色を眺める。

次に来る時、私は1人でここに建っているのだろうか?

紫式部達も同じ景色を見ていたのだろうか?
作り出す話の構想を考えていたのか?
それとも、未来を思い憂いていたのか?

向きを変え、本堂の中を見る。

そもそも私は、
「あれって紫式部じゃね?」
と1人で訪れた先で、誰かといる紫式部を遠目で見るモブだ。

嬉しそうに御朱印を受け取り、後ろに並んでいる人に軽く会釈をして、こちらに向かってくる大河はさしずめ、紫式部と一緒に来た貴族だろう。

私に向かって爽やかな笑顔を見せるが、これは私に向けられた笑顔だと手を上げれば、隣にいる紫式部へ向けた笑顔で恥ずかしい勘違いをするパターン。

私は1人で来てたんだっけと寂しさをより一層増すパターンだ。

「なにを思っていたんですか?」

くだらない妄想をしていたとは言えず
「これで最後だなぁっと思っていました」
と答えた。

2人旅もこれで最後。
とも思っていたので、嘘ではない。

次からは1人。

1人に戻るだけ。そう、あるべき姿に戻るだけ。

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