月とスッポン ありのままは難しい
その香りが少しでも感じられないかと大きく吸い込んでみる。
少し残念な子を見るような目で、大河が私を見ている。
気にしない。わかっているさ。
いくらなんでも匂いなんて残っていないだろうし、残っていたとしてもここまで届かない事ぐらい。
「こういった事を信じるとは思いませんでした」
「平安時代とかならなんでもありな気がするので、全てそのまま受け入れることにしてます」
「確かに」
2人で深く頷きあう。
「で、その経蔵の下に引いてあるあれは?」と指さす。
「安産祈願の腰掛石だそうですよ」
露出している岩の一部が腰掛けられるように座布団が置かれていた。
「《座りながら経蔵の束柱を抱くと安産のご利益を授かるそうです。
平安時代に皇族や貴族達が石山寺詣りの際縁結びや安産の祈りをしていた記録もあるそうで1000年を超える昔より続いている場所だそうです》」
「1000年前の人間も神社に来て祈ることは同じって事ですね」
「座りますか?」
「良縁も安産も必要ないので座りません。大河さんこそ座りますか?」
「私も安産は必要ありませんので」
「確かに。それにしても安産祈願にしては凄い場所にありますよね」
まだ上があると言う事は山の中腹なのだろうが、良縁はともかくとして荷重な人がここまで来る方が問題な気がする。