月とスッポン ありのままは難しい
山の上のさらに上に立つ光堂を見上げる。
そっと手を合わせ
「次回、ちゃんと挨拶に伺いますので今日はここからでお許しください」
と呟くと大河も同じように手を合わせた。
「これから下山して帰路に着く体力温存ですね」
「玄関の扉を開けて、ようやく終了です」
「ですね」
「です。で、紫式部はどちらにいるのでしょう?」
てっきり光堂の下の広場にいるかと思っていたのにその姿は見えない。
「この辺りのはずなんですけどね」
2人で見回してもその姿が見つからない。
「こうゆうのってわかりやすく置く物じゃないんですか?」
そう愚痴れば
「通常は、そうですね。目立つ場所に展示するか、思入れの場所に展示するかですね。この場合は後者でしょうか?」
「石山自体が思入れの場所でそれ以外にもって、わかるか!」
「あっ、あれじゃないですか!」
少しだけ下に灰色が見える。
思わず「わかるか!」と叫んでしまうのはご愛嬌で許してもらおう。
降りていけばそこには、麗しの紫式部。
「宝探しをした気分です」
つい意味もなく拝んでしまった。
「《この辺りは【源氏苑】と呼ばれる庭園だそうです」
紫式部を覆うように、草木が鬱蒼と生い茂っている。
「庭園感が皆無なんですが》」
「人が手を加えるだけが庭園ではないという事ではないでしょうか?」
「ものはいいようですね」
「《この紫式部像像は石山寺を訪れた式部が源氏物語の着想を得たまさにその瞬間を切り取ったと言われる土佐光起筆【紫式部図】をベースに制作されたそうです》」
「土佐さんは何時代の方?」
「江戸時代初期の絵師ですね」
「本人に会って書いたわけではないと」
「《室町時代末期から江戸時代初期にかけて、小画面形式の源氏絵がさかんに制作された中の最高傑作が土佐光起が描いた【源氏物語図】です。》国立博物館に貯蔵されていますので、今度見に行きましょうね」