月とスッポン ありのままは難しい
ウォーターサーバーに備え付けれたている小さな紙コップと深みのある赤紫の液体が入ったいかにも高級そうな瓶がドンと目の前に置かれる。
突然なんだ!と顔を向ければ、不機嫌そうな仕事出来美女が立っている。
「行った先の定番を持って来ることがこの会の参加条件でしょ。
これ、ボルドーで作られたメルローのぶどうジュース。飲みなさい」
クルービューティーという言葉は彼女の為にあると言っても過言ではない。
「フランスで国際会議でしたね。お疲れ様でした」
好好爺が早速と紙コップにぶどうジュースを注ぎ一口。
「アルコールが入っていないのが残念なほど美味しいですね」
この声を皮切りに皆がぶどうジュースを飲み始める。
「本物のボルドーワインだぁ」
「アルコール入ってないから」
あそこのあれ、これはあそこのか!
と、賑やかさが増したと思えば、人も増えていく。
ひとテーブルで収まっていたはずが、二つ・三つとテーブルが占拠するテーブルが増えていく。
楽しい話し声を遮るように、呼び出し音が響く。
ここは、病気。
一瞬、ピンを張り詰めた空気になる。
「茜ちゃん、電話です」
少し気の抜けたほのぼのとした好好爺の声で、
テーブルに置いたままの私のスマホが発信源だと気づくと、また賑やかさが戻った。
「えー、誰からですか?」
「父と表示されています」
「やな予感しかしません」
「では一度切ってしまいましょう」
私の手よりも先に好好爺の手が伸びる。