月とスッポン      ありのままは難しい

「それは知ってます。ってか自分が言ったんじゃん。復元でしょ。同じ材料、同じ手法。復元天守と一緒。ってか近いわ!」

大河を払い除け、最後にもう一度だけ、薬師如来像に「完成したらまた来ます」と声をかけ、根元中堂を後にする。


大河が御朱印を受け取りに行っている間に、長く高い階段横にある宮沢賢治の石碑を眺める。

「《浄土真宗の篤信家であった父政次郎と、【純正日蓮主義】を掲げる国柱会に心酔していた賢治は、深刻な【宗教対立】にありました。

その時に政次郎が延暦寺へ宮沢賢治と訪れたそうです。

 親鸞も日蓮も、若い時には延暦寺で修行をした経歴がありますから、この場所は二つの宗派のいわば共通のルーツです。

この延暦寺に父子で参詣して、浄土真宗も日蓮主義も、もとは一つの幹から分かれた枝にすぎないことを賢治に実感させれば、家の宗派に対する排他的な態度もやわらぐのではないか、そう政次郎は考えたのではないかと言われています》」
「もとは一つねぇ。ってか、書いてあるけどね」

銘板を指差す。

「なんだか今回は不発ですなぁ」

クククっと笑いながらいえば、耳と尻尾が垂れている様に見える。
しょげている姿が可愛いなんて思うのは、末期症状なのかもしれない。

「行きますよ」

手を差し出せば、「こんなに案内板があるなんて予想外です」と不服を申しだてしながら、私の手を握った。

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