月とスッポン      ありのままは難しい
「すごっ」と言葉が出る。
出来る人間は地頭からして違うのか。

薄暗い文殊楼の中に入る。

少しだけ躊躇して振り返ると大河がいる。
よく見えないけど、優しく笑っている様に見えた。

これは願望なのか?

それでもいい。
大河が後ろにいるという安心感だけで、狭く急な階段を登り切り、暗闇の中神々しい文殊菩薩に会えただけで良しとしよう。

外に出て来れた安堵感から大きなため息が出る。
少し暑さを感じされる外温で体を温めていれば

「《あちらから、先程登ってきた階段が本坂は、比叡山の麓の坂本から東塔への表参道になります。比叡山焼き打ちではこの坂道を織田信長軍の兵も駆け登ったと記録されています》」

大河の指を追って、歩いてきた道を振り返る。
見えない足軽達が駆けていく姿を想像する。

「ほとんどの僧侶は坂本にいたって言ってませんでした?」

「《当時の比叡山は酷いものだったと記録されています。
奈良・興福寺の僧侶たちからは「聖地・比叡山延暦寺は、僧侶たちが修行や学問をなまけて、もはや荒れ果てた状態だ」と言われて、織田信長の部下にも「比叡山延暦寺は、淫乱いんらんだ。しかも禁止されているはずの魚や肉を食べており、金儲けにふけって、もはややりたい放題の状態だ」と言われています。
戦火に身を置いている武将達の多くが神を信じていたので、余計に延暦寺の僧侶の腐敗は許せなかったと私は思いますよ》」
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