月とスッポン      ありのままは難しい
「個人経営だから許されると思っているのかしら。まぁいいわ」

なんて話しているうちに、何かの機械で肌を測定していたお姉さんがお姉様と話し出す。


お姉様の指示で一礼して、お姉さんが退出するのを確認すると

「茜は物事を深く考えすぎる傾向があるのね。私から言わせて貰うと、本当の自分なんて自分でわかっている人間なんていないと思うわ」

優雅に紅茶を一口飲み、小さく息をこぼす。
その息を吸い取りたい。

「『人は他者との関わりの中でしか存在できず、自分一人だけでは、自己を規定することができない』と何かで読んだことがあるの。私はその通りだと思うわ。『自分とは』なんて考えること自体がナンセンスだと思うわ」

なんて哲学的なご意見だ。
やっぱり頭のいい方の考え方は違う。
これが教育の差なのか?

「でも、でもですよ。良い事の後には悪い事が起こるじゃないですか!これ以上悪い事が起きてほしくないんです。だから現状維持が1番ではないでしょうか」

行き良い言い始めたはいいが、言っているうちに不安になり声が小さくなる。

「『禍福は糾える縄の如し』」
お姉様の横に座っているイケオジが呟く。
いつの間に!ってか誰だ?

「悪い事?ケガをするとか?」
「あるいは事故に遭う。職を失うと言ったところでしょうか?」

2人で首を傾げ合う。
美しい。

「事故を起こすのは自分で気をつけるべきですし、仕事がなくなっても別の職に就けば良いだけなのではないかしら?」

さぁ、次へ行ってみよう!
なんて簡単に言えてしまうお姉様が羨ましい。
職を失う。
それはかなりの恐怖です。

「そんな簡単な話ではないとは思いますが」

イケオジ、ナイスツッコミだ!

「そうかしら」なんて首を傾げるお姉様はやっぱり美しい。

「茜にとって悪い事とは何かしら?」

私にとって悪い事?

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