月とスッポン      ありのままは難しい
両親はいない。
幼い頃を記憶を辿り寄せようやく朧げにシルエットを思い出す実母。

1人では育てられないと祖母に預けた実父は、仕事を言い訳に帰ってこなくなり、いつの間にか別の家庭を築いていた。

祖母が亡くなり、中学生で1人暮らし。高校へ進学するも実父のお金を使うのも何か違う気がしてバイト三昧。卒業後は綾香さんの為にと仕事三昧。

「思っていた以上に壮絶ね」

今度は私が首を傾げる番の様だ。

戻ってきたお姉さんがターンテーブルの上に大きな鏡を置くとその周りを囲む様に化粧品を並べていく。


「そうですか?小さい頃の事はよく憶えていませんし、祖母がいた時から海達がいつも一緒だったので、寂しい思いも困った事もありませんでした」

そう今思えば、既に連絡が取れなくなっていた実父の代わりに綾香さんが、祖母を見送ってくれた。
綾香さんが倒れた時も達ちゃんが手を差し伸べてくれたし、綾香さんの施設も病院側が良い施設を紹介してくれた。

困った時には常に誰かが手を差し伸べてくれて、本当に窮困する事はなかった。

運が良かったとしか言いようが無い。
飢えに苦しむ事も、犯罪に手を出す事もなかった。

社会というピラミッドの中で常に下で足掻いていたが、ピラミッドから追い出される事はなかった。
< 6 / 183 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop