月とスッポン ありのままは難しい
「《円仁は日本人僧で、最後の遣唐使として838年 承和5年に博多を出発して、唐の都の長安に向かい、そこで生活して、847年 承和14年に帰国するまでの、10年間の日記【入唐求法巡礼行記】の著者として有名です。
このときの唐の皇帝は武宗でした》」
武宗って誰?
とは思ったが、ここで聞き返すと長そうな気がする。
心の片隅にメモをして、後で調べよう。
「《武宗は、道教に入れ込んで、仏教を弾圧した晩唐の皇帝として知られる人です。
円仁は、滞在中に、百回近くにわたって日本への帰国願いを出していますが受理されず、最後はなんと、外国人僧侶追放令にあって、ようやく帰国できました。
そういう時期の渡唐記録なのですが、内容はすこしも私情を交えず、冷静に、きちんとした観察眼をもって綴られています。
その素晴らしさから【東方見聞録】、【大唐西域記】とともに世界で【東アジアの三大旅行記】と呼ばれている古典書物があります》」
「へー」
颯爽と階段を登り始める大河を引き留め、写真に写り込まないよう、割って入る。
美しい石垣と中堂を私は撮りたいのだ。
「この石垣は穴太衆積と言われ」
「知ってる。ちょっと邪魔」
今度は石垣だけを写す。