あの夏、君と最初で最後の恋をした

颯太と過ごす5日目の朝。
ずっと雲ひとつない青空が広がっていた空が、
今日はどんよりとしている。

「台風が近づいてるみたいだよ」

庭に出て空を見上げていた私に、颯太がそう声をかけてきた。

「紬さん、大丈夫かな?
飛行機欠航になるかも……」

心配そうな顔でそう言う颯太とは反対に、
私は内心ホッとした。

紬ちゃんに颯太の事、何て話していいのか分からないから。
飛行機が欠航になれば紬ちゃんはこっちには来れない。

そしたら颯太とまだ一緒に、2人でいられる。

「こっちも念の為台風に備えて準備しなきゃね。
とりあえず買い出しして、雨戸とかチェックしとかないと」

「あ、じゃあ私買い出しいくよ。
何がいるかな?」

「本当?
助かるよ」

まだ雨も降っていない今の内にと、急いでスーパーへ向かう。
必要な物を買い揃え、帰り道を歩いていると美也子さんを見かけた。

声をかけようとした開いた口は、美也子さんの顔を見て閉じてしまった。

美也子さんが、慌ててるような、焦っているような、
そして何より悲しそうな顔でいたから。

そんな表情でまわりを、というか下を見ながらキョロキョロしている美也子さんに私は閉じてしまった口を開く。

「おはようございます、美也子さん」

「あ……、友花ちゃん。
おはよう」

顔を上げて慌てて作った笑顔が痛々しい。

「どうかしましたか?
何だか、えっと……、悲しそうに見えて……」

「……やだ、心配かけてしまったわね、ごめんなさい」

「いえ、ただ何かあったのなら、
私に出来る事があるならと思って」

「ありがとう、優しい子ね、嬉しいわ」

そう言ってやっぱり痛々しいような、悲しい笑顔で無理に笑う美也子さんが頬に添えた手に違和感を感じた。

……何だろう、
何か、昨日と違うような……。

!!
「美也子さん、指輪、どうしたんですか?」

違和感の正体、それは美也子さんの指だ。
昨日は薬指に指輪がつけられていた。

昨日、帰る時に美也子さんの指に光る指輪が綺麗で可愛くて、聞いたんだ、

『旦那様との結婚指輪ですか?』
って。

そしたら美也子さん、照れたように恥ずかしそうに笑って、

『そうなの。あの人と一緒に選んだのよ。
あの頃より痩せちゃって指輪が緩くなったから落とさないように気をつけなきゃ』

そう、言っていた。

……もしかして、

「結婚指輪、落としたんですか……?」

そう聞いた私の言葉に、
美也子さんは悲しそうに頷いた。








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