あの夏、君と最初で最後の恋をした

「楽しかったー!」

夕方、家に帰りそう言ってソファーに飛び込む。

恋人同士としてのデート、それはもう叶わない事だと思っていた。
だけどこの夏に叶った。

手を繫いで一緒に買い物したりカフェでお茶したり、そんな他愛もない事が楽しくて幸せで夢みたいで。

「この間の海も楽しかったし、映画も花火も楽しかったなー」

「そうだね、友花と一緒だと本当に楽しいよ」

「私も!
颯太と一緒だと楽しさが何倍にもなる!」

2人で笑い合うこの瞬間が好き。
颯太と2人なら、何でも楽しい。

「夜は星を見たいんだよね?
じゃあ早目にご飯済ませようか」

「うん!
お腹空いたー」

2人でキッチンに立ちご飯を作るのも、もう何度目だろうか。
前まで私がご飯を作る事はあまりなかった。
料理は正直苦手だし、颯太が作る方が早くて上手で美味しいから。

だけど、この夏に颯太に料理も教えてもらって料理の楽しさが分かった。

好きな人に美味しいって食べてもらえたら、
凄く凄く嬉しいって分かったから。

「友花はこの1週間で凄く成長したね」

料理をしながら颯太がそう言ってくるから野菜を切る手を止めて颯太を見る。

「そうかなぁ?
料理が楽しいのは分かったけど」

「料理だけじゃないよ、
ひとりで買い物だっていってくれたし、宿題もひとりで頑張ってたし、何より美也子さんのためにあんな土砂降りの中一生懸命指輪を探した。
ずぶ濡れで土や草で汚れてもそんな事全く気にしないで、あんなに必死に。
……凄いなって思った。
だけど、あの姿は本当の友花の姿だよ」

「え……?」

「さっ、後は僕がやるから友花は先にお風呂入ってきなよ。
汗もかいただろうし、さっぱりしておいで」

「いいの?
颯太だって疲れてるのに……」

「大丈夫、僕がそうしたいんだ」

「……分かった。
ありがとう、お言葉に甘えるね」

そう言ってリビングを出てお風呂へ向かう。

私、颯太から見て成長したのかな?
だったら嬉しい。

だって昔から颯太は私より色んな面で大人みたいに凄かったから。
いつだって優しくて私を守ってくれて。
そんな颯太に頼ってばかりで甘えっぱなしだった。

だけど、
そんな私が颯太に凄いって思ってもらえた。

それが、こんなにも嬉しいなんて。

甘えるのも頼るのも一方的じゃ駄目だ。
これからは私が、颯太に頼られたいし、甘えられたい。

……ああ、これが、
愛しいって気持ちなんだ。






ねぇ颯太。
こんな気持ちを私に教えてくれて、
ありがとう。

でも、もっと早く気づきたかったな。
そしたら私、
颯太をもっともっと甘えさせたのに。

颯太をもっともっと、
幸せにしたのにな――。




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