あの夏、君と最初で最後の恋をした

颯太との二度目の別れが、近づいている。

「友花に幸せになってほしい。
友花が本当に大好きだから」

そう話す颯太の、私を抱きしめる腕が震えている。

「……いつか、おばあちゃんになって会った時には、
もう一度こうして抱きしめてくれる?」

私の言葉に颯太が応えるように、
私を強く抱きしめる。

「うん、何度だって抱きしめる」

「頑張ったって、たくさん褒めてくれる?」

「当たり前。
たくさん褒めるよ。友花がやめてって言うくらいに」

「……絶対だよ?」

「うん、約束」

そう言って指切りの代わりにキスをした。

「大好きだよ、颯太」

「僕も大好きだよ」

……本当は嫌だ。
颯太にずっとずっと隣にいてほしい。
颯太とずっとずっと一緒にいたい。

颯太がいなきゃ笑えない。
颯太がいなきゃ幸せになれない。

その思いはまだ変わらない。

嫌だよ、別れたくないよ。
ずっとずっと、一緒に生きていきたいよ。

……でも、
そう強く思っていたのは、
颯太、なんだ。

颯太は私がこれから先、幸せに生きていけるように戻ってきてくれた。
私が立ち上がって生きていけるように。

そのために、
もう一度、別れる事も覚悟して。

どれだけの覚悟で戻ってきてくれたんだろうか。
ただ私のこの先の幸せのためだけに。

私は颯太が好き。
大好き。

だからこそ、颯太の覚悟に、想いに、
応えたい。

「頑張るから。
私、ちゃんとする。
もうひとりで殻に閉じこもって泣かない。
ちゃんと、するから…·」

「うん、でも無理はしたら駄目だよ?」

「うん。
……ちゃんと、幸せになるから。
だから、見ててね」

「うん、見てるよ。
幸せになるんだよ」

「うん、ちゃんと、生きるから……」

「うん」

颯太が優しく笑って、
優しく暖かい手のひらで頭を撫でてくれる。

大好きな颯太の優しい暖かい手のひら。
大好きな颯太の優しい笑顔。

忘れない、忘れたくない。
颯太の全て、覚えおきたい。

「大好き、颯太。
大好き」

何度だって伝えたい。
大好きだよ、颯太。

「大好きだよ、友花」

もう一度、キスをする。

最後の、キス。

顔を上げて颯太を見る。

忘れない、
忘れないよ。

例え遠い未来、
颯太の言う通り好きな人が出来ても、
私は颯太の事忘れない。

「……そろそろ、時間だ」

「え……?」

そう、颯太が言った瞬間、
抗えない程の眠気に襲われる。

「颯太……」

瞼が重い。
必死に颯太の腕を掴むけれど、力が抜けて颯太の腕を離してしまう。

……ヤダ、ヤダよ颯太。

いかないで、
いかないで。

「ありがとう、友花。
大好きだよ」

意識を手放す瞬間に聞こえたのは、
颯太の優しい声だった――。

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