あの夏、君と最初で最後の恋をした

スーツケースをガラガラと引きながら地元へと戻ると、そこはまるで別世界のよう。
同じ暑さでもジメジメとしていてアスファルトで照り返す熱が体力を奪う。

一緒に戻る予定だった紬ちゃんは急な仕事でまた海外に飛んでいった。

「暑っ……」

思わずぽつりとこぼれる。
流れる汗をハンカチで拭いながら家までの道を歩く。

颯太と一緒に歩いた道。
ひとりで歩くのはまだ胸が痛い。

だけど、前みたいな苦しみはない。

「ただいまー」

「おかえりー!
暑かったでしょう?」

ドアを開けたらすぐにママがパタパタと走ってきてくれた。

「疲れたでしょう?
片付けは後にして着替えてきなさい。
スイカ冷やしてるのよ、切っておくから」

「うん、ありがと!」

「あら?
友花、あなた……」

そう言ったママの目に涙が浮かんできた。

「ママ?」

「友花、良かった……。
友花の笑った顔、ママ久しぶりに見たわ……」

ママの言葉に今までどれだけ心配かけたのか痛感する。

「ごめんねママ。
もう大丈夫だから。
私、ちゃんと幸せになるために頑張るから」

「そう、そう……。
そうね、幸せにならなきゃね……」

泣き笑いみたいにふたりで笑う。

「着替えてくる!
スイカ切ってて!」

何だか少し照れくさくて早足で階段を上がって部屋へと入る。

久しぶりの自分の部屋。
目を閉じて深呼吸をする。

……ああ、帰ってきたなぁ。
何て思いながら目を開けると、机の上に布がかけられている何かが置かれているのが目に入った。

何だろ?
ママが何か置いてったのかな?

不思議に思いながら机に近づき、布を取る。

その瞬間私の目に飛び込んできたのは、
1枚の絵だった。

「私……?」

震える手でその絵に触れる。

『描いたら1番に見せてね』

昔交わした約束を思い出す。

「颯太、だ……」

人物画を描かなかった颯太。
そんな颯太が、私を描いてくれた。

いつの間に描いたんだろう。
颯太の描いてくれた私は、
笑顔だった。

「颯太……!」

涙が溢れてくる。

だけどね、颯太。
この涙は悲しい涙じゃないから。

颯太、
私、頑張るね。

こんな笑顔で幸せになるように、
頑張るから。

ちゃんと生きていくから。

だから、
見ててね。

そして遠い未来、笑顔で会いにいくから。

その時は私は皺くちゃのおばあちゃんになってるかも知れないけど、ちゃんと見つけてね。
そして約束通り、たくさん褒めてね。
たくさん、抱きしめてね。

ありがとう、颯太。

大好きだよ――。


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