口下手な海上自衛官は、一度手放した元許嫁に海より深い愛を捧ぐ

海の中で、君を想う(清広)

 ──潜水艦の中には、自由がない。

 働き方改革が進む令和の世の中では、労働基準法によって乗組員の休息をしっかり取るように定められているが、海の中で陸の上で暮らす人々のルールが適用できれば苦労はしない。

 どこを航海しているのか。

 何をしているのかを聞かれても、口を閉ざさなければならない環境で、きっちり週休二日の休みを得られると思うほうがおかしいのだ。

 海の中で起きた出来事は、門外不出。

 一度出港したが最後。

 基地を離れたならば、最低でも二か月は戻ってこられない。

 任務を終えて陸に上がったところで、早ければ数時間後にはまた潜水艦に乗り込むことになるのだ。

 休日出社分の代休も取れずに潜水艦の中で生活し、自宅でゆっくりしていられる時間は年間三十日程度しかない。

 そんな状態でも上司から飲み会に誘われたら断ることなど許されず、実際に自宅でゆっくりと身体を休められる時間はもっと少なくなる。

 プライベートを満喫する暇など、存在しないと言っても過言ではない。

 海曹長として働く清広は水測員達の指揮を任されているため、部下を差し置き率先して休息を取るわけにはいかなかった。
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