口下手な海上自衛官は、一度手放した元許嫁に海より深い愛を捧ぐ
「嘘つき……!」

 ──わかっていた。
 清広にどんな言葉を投げかけても、未来が覆ることはないと。

「私は清広さんが、二度も間違いを犯すような人ではないと信じたから! あなたの妻になったんですよ!?」

 それでも彼女は、諦められなかった。
 夫婦になった以上は我慢しないと、決めたからだ。

「一生添い遂げる覚悟がなければ、結婚なんてしません!」

 涙ながらに清広を睨みつけて訴えかけたつぐみは、机の上に置かれた記入済みの紙を手に取ると、勢いよく破った。

「私と二度も縁を切ろうとするなんて、絶対に許しませんから……!」

 どうせ、真面目な清広のことだ。

 こうなることを予想して、何枚も記入済みの紙を用意しているのだろう。

「私の清広さんに対する愛を、見くびらないでください!」

 ビリビリに破り捨てられた離婚届が紙吹雪となり、宙を舞う中。

 そう宣言したつぐみは、言いたいことを吐き出してすっきりしたようだ。

 二人の間には、気まずい沈黙が流れた。

「俺はつぐみに、何もしてやれなかった」

 バツが悪そうに呟いた彼の声を耳にしたつぐみは、何度も首を振って否定したい気持ちでいっぱいな思いを伝えるべく、夫に向かって叫ぶ。
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