口下手な海上自衛官は、一度手放した元許嫁に海より深い愛を捧ぐ
(清広さんは、私のことを全然わかってない……)

 つぐみが欲しかったのは、彼女を思いやる言葉ではなく──。

「着いて来てほしい」

 ──そう。

 妻として、永遠に隣を歩く権利が欲しかったのだ。

「もちろんです……!」

 満面の笑みを浮かべたつぐみは、勢いよく清広の胸元へ飛び込む。

 幹部学校でしっかりと鍛え上げてきた彼は、愛する妻をしっかりと抱き止めながら彼女の様子を窺う。

(あれ? 押し倒したつもりだったのに……)

 目を合わせたつぐみは、愛しき人が自分と同じように目を丸くしていることに気づき、クスクスと声を上げて笑った。

「私、ここに残ったほうがいいですか?」
「まさか。俺の気持ちは、つぐみの許嫁になった時から変わらない」

 ──ずっとそばにいてほしい。

 言葉を交わさなくても、触れ合わなくても。
 同じ場所にいられるだけで幸せだと思い合える夫婦だからこそ、二人はうまくやれている。

「私もですよ」

 つぐみが清広と結婚したことを、後悔するなどあり得ない。

 彼はお国のために、どれほど忙しくても泣き言一つ溢さず、一生懸命働いているのだから──。
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