口下手な海上自衛官は、一度手放した元許嫁に海より深い愛を捧ぐ
「精神的に未熟な学生では、なくなったからな」

 彼は自分とつぐみが同じ気持ちのままこの十年間を過ごしてきたと、本気で確信しているのだろう。
 だから、これほど強気になれる。

「俺に一度だけ、チャンスを貰えないか」
「一体、なんの……」
「俺の妻になってくれ」
「……私、が……?」
「ああ。やり直そう。最初から」

 つぐみの手を離したのは清広で、再び彼女に手を差し伸べて来たのも、彼だった。

(こんなの、あんまりだ)

 何よりもつぐみは、清広が微笑みを浮かべていることが信じられなかった。

 別れた直後に抱いた苦しみや悲しみは、十年後にもう一度やり直そうと言われただけで、癒えるようなものではない。

(完全に、舐められている……)

 元々内向的な性格をしているつぐみは、清広の一件があってから人を信じるのを止めた。
 それはこれ以上傷つきたくない彼女の、防衛本能の現れだった。

(私の意思なんて、みんなどうでもいいんだ……)

 ──同僚から言いがかりを受けてもじっと黙って耐えていたのは、話を大きくした所で手を述べてくれる人はいないと知っていたからだ。
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