口下手な海上自衛官は、一度手放した元許嫁に海より深い愛を捧ぐ
「……一日中一緒にいられるのは、今日だけかもしれないんですね……」
「ああ。だから、どうしても今日中にもつぐみと同棲に持ち込みたかったんだ……」

 清広が急いでいた理由を知ったつぐみは、後ろを振り返って彼の表情を確認する。
 声音がどこか、寂しそうに聞こえたからだ。

「お仕事、忙しいんですか?」
「そうだな」
「あの……。軽い気持ちで勧めて、ごめんなさい。私、海上自衛隊がどう言うところなのか、知らなくて……」
「……いや。この仕事が好きでなければ、ここまで続けられないさ」

 責任を感じたつぐみが謝罪をすれば、清広は気に病む必要はないと彼女の頭を優しく撫でつけた。
 気持ちよさそうに瞳を細めた彼女は、穏やかな口調で彼に告げた。

「私と、同じですね」
「……つぐみと?」
「はい。親御さんの対応とか、同僚との人間関係とか……。大変なことばかりだけど……。保育士を続けて来られたのは、子どもが好きだからだと思うので……」

 気の弱いつぐみは何かと気が強い同僚達に押しやられ、責任を取らされたり仕事を押し付けられたりと、どこの保育園でも影が薄い。
 大人しい性格をしているため言いやすいのか、園児の親達からの当たりもかなり強かった。
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