口下手な海上自衛官は、一度手放した元許嫁に海より深い愛を捧ぐ
 それからつぐみは清広とともに、目黒夫妻が披露宴を上げたホテルに連れて来られた。

「あらあら。主役のお出ましだわ~」
「重役出勤、お疲れ様~」

 そこにはすでに両親が揃っており、遅れてやってきた息子と娘を茶化す。

「お母さん……」
「よかったわね、つぐみ! 子どもの頃の夢が叶って! 清広くんと事前に打ち合わせしておいて、本当によかったわ~」
「それって……どう言う……」
「さぁ、ウエディングドレスに着替えて! 清広も! 皆さん、お待ちかねよ!」
「ああ」

 二人は息をぴったり合わせて子ども達を急かすと、状況の飲み込めていないつぐみを控室に押し込み、ウエディングドレスに着替えるように指示を出す。

(このドレス……)

 言われた通りに押し付けられたウエディングドレスに身を包んだ彼女は、このデザインに見覚えがあることに気づいた。

『私、清広さんと結婚する時は、このウエディングドレスが着たい!』
『お母さんのお下がりがいいなんて、変わった子ねぇ……』

 子どもの頃に交わした約束を、母か清広が覚えていたのだろう。
 つぐみはまさか幼い頃の夢が叶うなど思わず、母親と体型が異なる自分の身体にぴったりとフィットしたこと疑問に思った。
< 97 / 160 >

この作品をシェア

pagetop