凍った花がとけるとき
 三崎さんに、最近余所余所しい理由を問い詰めれば、なんと俺が結婚するから、だという。
 結婚するつもりはないと言うと、つぶらな彼女の瞳はいっそう大きく見開かれた。
 いつも冷静な彼女が、噂に振り回されるなんて珍しいなと思う。でもだからと言って同期とあんなに仲良くしているのは気に入らなかった。三崎さんの気持ちはどうであれ、帆足は絶対に三崎さんのことが好きだ。あの視線に心当たりがある。あれは、俺が彼女のことを見つめているときと、同じだ。

「で、しかも。俺が結婚するからって、同期とつき合うの?」

 そう問えば、目をぱちぱちと瞬かせている。

「同期……って帆足くんですか? まさか」
「まさかっていう感じじゃなかったけど」
「そんなこと考えてもいません」
「へえ。まあいいけど。珍しいね。三崎さんが確認もせずに思い込むなんて」
「それは……」

 言い淀んだ彼女を見て、理由を考える。そして思い至った理由に、まさか、と少しだけ胸が高鳴った。
 いつも冷静な彼女が思わず誤解をするくらい動揺した。それは俺の結婚がショックだったからではないだろうか、と。
 そうであればいい、という希望が俺の気を大きくさせた。

「ですが、やはりおかしいと思います。その、あんなに日常的にご馳走になったり……」

 どんどん小声になって、目を伏せる彼女が、愛しくてたまらない。

「それは、三崎さんだから、特別だよ」

 そう言って、掴んだまま離せずにいた彼女の手首をくいっと引っ張った。彼女の身体が、すぽんとまるでそこにあるべきもののように、胸に収まる。
 想像以上の柔らかさに慄いて、そっと抱きしめようと腕をまわすと、三崎さんがありったけの力を込めて押し返してきた。そんなに嫌なのか、とショックを受けて、彼女の視界に入ろうとした瞬間、ふっと三崎さんは俺の手の中から抜け出した。
 目が合う。驚いたような顔も、愛しくて仕方なかった。ふっと気が緩む。

「好きだよ、きみが」

 まず大切なことを伝えなければ。

「三崎さんとしか結婚するつもり、ないから。だから早く俺を好きになって」

 呆然とこちらを見つめる三崎さんからは、とてもすぐに返事がもらえそうもない。でも、少しでも、意識してほしい。

「ていうかさ、俺が結婚するからってそんなに考えてくれるってことは……。三崎さん、俺のこと好き?」

 ただ、それは間違っていた。
 彼女は、すっと息を吸うと、固い決意とともに吐き出した。

「わたしは、絶対に副社長のことを好きにはなりません……!!」

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