凍った花がとけるとき
敵情視察というわけではないけれど、繁華街の視察は土日に赴く事が多い。もちろん平日の様子も確認はするけれど、賑わい方が比べ物にならないから、どうしても土日祝がメインになる。
今日は、郊外にあるアウトレットモールの視察に向かっていた。
仕事の一環なので社用車に便乗させてもらい、運転は渡辺さんがしてくれている。
相変わらず副社長は、わたしが助手席に座ることを好まない。読んでほしい資料をすぐ手渡したいから、なんて言われると反論もしづらく、わたしは今日も小さくなって後部シート――副社長の隣に座っていた。
車内での副社長はタブレットから目を離さない。金曜日の定時ギリギリのタイミングで、大量に送られてきた資料やデータを確認しているのだろう。手渡すもなにもないのでは、と思いながら、邪魔をしないように息を詰めた。わたしも仕事をすればいいのだろうかと社用携帯を確認するけれど、残念ながらメールは何も届いていない。仕方ないのでこれから行くモールのフロアマップを開いた。
表示された画面に、ここも変わってないな、と溢れそうなため息を飲み込んだ。
細身のストレートパンツにニットという軽装の副社長はなかなか見慣れなくて、視界に映るたびにどきりとしてしまう。座っていてなお、足の長さが強調されているから、余計に。
高速を下りると同時に、タブレットを鞄にしまった副社長と目が合ってしまった。
「どうしたの?」
「いえ、仕事もせずに座っていて申し訳ないなと」
「むしろ休日出勤させて申し訳ないね。でもやっぱり女性の視点も欲しいから」
「それは構わないんですが、そういえば企画開発のスタッフが一緒に視察にいきたいと話していましたよ」
「うーん。それは部署内で行ってもらってくれる? 企画開発はちょっと」
「ちょっと……?」
「女性社員の圧が強いんだよね。食事とか飲み会の誘いも多くて……」
「なるほど。仕事以外の目的がありそうってことですね」
「まあ人のことは言えないんだけど」
さらりとそう言って、頬杖をついた副社長はこちらに視線を向けてくる。それには気づかないふりをした。
「まだ正式に依頼は来ていませんが、何かあったら回避するようにします」
「ありがとう。助かる。いっそ結婚したら、こんな誘いもなくなるのかなあ」
「そうかもしれませんね」
「じゃあ、」
「あ、見えてきましたよ」
ぱっと顔を輝かせた副社長の言葉を遮って、前方を指差す。
すぐにだだっ広い駐車場が見えてきて、ずきりと胸の奥が痛んだ。
今日は、郊外にあるアウトレットモールの視察に向かっていた。
仕事の一環なので社用車に便乗させてもらい、運転は渡辺さんがしてくれている。
相変わらず副社長は、わたしが助手席に座ることを好まない。読んでほしい資料をすぐ手渡したいから、なんて言われると反論もしづらく、わたしは今日も小さくなって後部シート――副社長の隣に座っていた。
車内での副社長はタブレットから目を離さない。金曜日の定時ギリギリのタイミングで、大量に送られてきた資料やデータを確認しているのだろう。手渡すもなにもないのでは、と思いながら、邪魔をしないように息を詰めた。わたしも仕事をすればいいのだろうかと社用携帯を確認するけれど、残念ながらメールは何も届いていない。仕方ないのでこれから行くモールのフロアマップを開いた。
表示された画面に、ここも変わってないな、と溢れそうなため息を飲み込んだ。
細身のストレートパンツにニットという軽装の副社長はなかなか見慣れなくて、視界に映るたびにどきりとしてしまう。座っていてなお、足の長さが強調されているから、余計に。
高速を下りると同時に、タブレットを鞄にしまった副社長と目が合ってしまった。
「どうしたの?」
「いえ、仕事もせずに座っていて申し訳ないなと」
「むしろ休日出勤させて申し訳ないね。でもやっぱり女性の視点も欲しいから」
「それは構わないんですが、そういえば企画開発のスタッフが一緒に視察にいきたいと話していましたよ」
「うーん。それは部署内で行ってもらってくれる? 企画開発はちょっと」
「ちょっと……?」
「女性社員の圧が強いんだよね。食事とか飲み会の誘いも多くて……」
「なるほど。仕事以外の目的がありそうってことですね」
「まあ人のことは言えないんだけど」
さらりとそう言って、頬杖をついた副社長はこちらに視線を向けてくる。それには気づかないふりをした。
「まだ正式に依頼は来ていませんが、何かあったら回避するようにします」
「ありがとう。助かる。いっそ結婚したら、こんな誘いもなくなるのかなあ」
「そうかもしれませんね」
「じゃあ、」
「あ、見えてきましたよ」
ぱっと顔を輝かせた副社長の言葉を遮って、前方を指差す。
すぐにだだっ広い駐車場が見えてきて、ずきりと胸の奥が痛んだ。