凍った花がとけるとき
 結婚直前で振られ、わたしの人生は一変した。
 努めて冷静に式場をキャンセルし、両親に結婚を取りやめることを伝えた。
 親は言葉を失っていたけれど、疲弊し切ったわたしを見て、察したのだろう。責めるようなことは何も言われなかったのが、唯一の救いだった。ただ、腫れ物に触るような扱いが嫌で、連絡を取ることも減った。 
 そして、前の職場を辞めた。
 同僚や上司にも結婚することは伝えていたし、結婚式の招待状も発送してしまっていた。
 その人たちひとりひとりに結婚が取りやめになったことを伝えるだけで、心が折れてしまった。
 すでに出欠の返事を戻してくれている人たちもいた。幸せが詰まったはずのそれらを全部、破り捨てながら、一人のときだけ思う存分泣いた。 
 深刻にならないよう、へらりと笑って説明してたのが良くなかったのだろうか。「いろんなことがあるよね」と慰めてくれる人が大半だったけれど、社内恋愛で、相手が女性から人気があったこともあり、陰口も色々叩かれた。
 わたしの性格に誠治が嫌気がさしたとか、わたしが二股をかけていたとか、元々略奪愛だった、とか。明らかに嘘だとわかるものもあったけれど、噂をされているだけで辛かった。
 何より前の会社には、誠治との記憶が詰まりすぎていた。

 それを全部リセットして生きていこうと決めたのだ。結婚や恋愛に支配されず、自分の気持ちを自分でコントロールできるようになりたい、という気持ちが強かった。

 それにもしまた同じようなことが起きたら、今度はもう頑張れない気がする。

 副社長が自分ではない誰かとつきあうことを考えたら苦しい。
 でも、今ならまだ引き返せる。
 この苦しさは、乗り越えられる気がする。

 けれど、今ですらこんなに苦しいのだから、これから先、本当に好きになってしまったら、きっともっと大きな喪失感を味わうのだろう。
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