凍った花がとけるとき
副社長の家は会社から車で十分ほどの場所にあるマンションだった。二十階建ての最上階。超高層というわけではないけれど、都心の一等地のマンションに住んでいるとは、さすがとしか言いようがない。下層フロアは同じ階に何戸かあるそうだけど、十五階以上は、ワンフロア一世帯だそうだ。エレベーターもカードキーをかざしたフロアにしか停まらない。
「家にスペアキーがあるから、あとで渡すね」と言いながら、副社長はマンションについて説明してくれる。エントランスにいるコンシェルジュにも紹介してくれた。確かに顔を覚えてもらっておかないと、突然二十階に見知らぬ女が出入りしたら、目立って仕方ないだろう。
駐車場から居住フロアに上がるエレベーターに乗るにもキーがいるし、エントランスに入るにも同様だ。
副社長が言っていた『セキュリティの問題がない』という言葉に頷くしかなかった。
「すごい厳重ですね……」
「でしょ。でもキー忘れないように気をつけてね。無いと本当に面倒だから」
「確かに……」
「ま、基本一緒に行動するから大丈夫だと思うけど。実は会社にも一枚スペアを置いてあるんだ。忘れて出勤したことがあって、酷い目にあったから」
「副社長にもそんなうっかりなところがあるんですね」
「日本に帰ってきたばかりの頃にね。ここのコンシェルジュは優秀だからさ、いくら言っても、確認が取れるまで入れられませんって」
鍵置いてある場所、明日教えるね、と微笑まれる。
「そろそろシステムを変えるらしいんだけど、顔認証か指紋認証にするかで、もめてるんだって」
「へえ……」
どちらにせよ一般人にはあまり関係ない話だな、と思いながら副社長の言葉を聞いていると、エレベーターはあっという間に二十階に着いた。
副社長の家は、確かにプライバシーを心配する必要がないほど広かった。玄関を上がって廊下を進むと途中にバストイレ、さらに奥にキッチンとリビングダイニング。さらにその奥にも廊下があって、部屋が四つ並んでいる。
一番奥は副社長の寝室、その隣が書斎らしい。
「一番右奥の部屋がゲストルームなんだけど、ここ使ってもらえばいいかなって。部屋にお風呂とトイレついてるし」
「え!?」
言われて覗き込めば、私の一人暮らしをしている家と同じくらい――いやそれ以上に広い部屋広だった。確かに、部屋の一角にホテルみたいにお風呂とトイレがついている。しかも別々に。
「もちろん、あっちの広い方使ってくれてもいいけど」
「いえ……こっちの方が有難い、です」
それから副社長がデリバリーを頼んでくれた。憧れのアイランドキッチンだけど、料理はまったくしないらしい。ほとんど使われた形跡のない調理器具が収まっている。
「ハウスキーパーを頼んでいて、時々料理も作っておいてもらってたんだけど……急に会食とか入ると残しちゃうから申し訳なくて。最近は特にキッチン使ってないかも。三崎さん、遠慮なくなんでも使ってね」
「はあ……」
一通り何でも揃ったキッチンにぽかんとしてしまった。オーブンや食洗機、ディスポーザーも当然のように備え付けられている。
「家にスペアキーがあるから、あとで渡すね」と言いながら、副社長はマンションについて説明してくれる。エントランスにいるコンシェルジュにも紹介してくれた。確かに顔を覚えてもらっておかないと、突然二十階に見知らぬ女が出入りしたら、目立って仕方ないだろう。
駐車場から居住フロアに上がるエレベーターに乗るにもキーがいるし、エントランスに入るにも同様だ。
副社長が言っていた『セキュリティの問題がない』という言葉に頷くしかなかった。
「すごい厳重ですね……」
「でしょ。でもキー忘れないように気をつけてね。無いと本当に面倒だから」
「確かに……」
「ま、基本一緒に行動するから大丈夫だと思うけど。実は会社にも一枚スペアを置いてあるんだ。忘れて出勤したことがあって、酷い目にあったから」
「副社長にもそんなうっかりなところがあるんですね」
「日本に帰ってきたばかりの頃にね。ここのコンシェルジュは優秀だからさ、いくら言っても、確認が取れるまで入れられませんって」
鍵置いてある場所、明日教えるね、と微笑まれる。
「そろそろシステムを変えるらしいんだけど、顔認証か指紋認証にするかで、もめてるんだって」
「へえ……」
どちらにせよ一般人にはあまり関係ない話だな、と思いながら副社長の言葉を聞いていると、エレベーターはあっという間に二十階に着いた。
副社長の家は、確かにプライバシーを心配する必要がないほど広かった。玄関を上がって廊下を進むと途中にバストイレ、さらに奥にキッチンとリビングダイニング。さらにその奥にも廊下があって、部屋が四つ並んでいる。
一番奥は副社長の寝室、その隣が書斎らしい。
「一番右奥の部屋がゲストルームなんだけど、ここ使ってもらえばいいかなって。部屋にお風呂とトイレついてるし」
「え!?」
言われて覗き込めば、私の一人暮らしをしている家と同じくらい――いやそれ以上に広い部屋広だった。確かに、部屋の一角にホテルみたいにお風呂とトイレがついている。しかも別々に。
「もちろん、あっちの広い方使ってくれてもいいけど」
「いえ……こっちの方が有難い、です」
それから副社長がデリバリーを頼んでくれた。憧れのアイランドキッチンだけど、料理はまったくしないらしい。ほとんど使われた形跡のない調理器具が収まっている。
「ハウスキーパーを頼んでいて、時々料理も作っておいてもらってたんだけど……急に会食とか入ると残しちゃうから申し訳なくて。最近は特にキッチン使ってないかも。三崎さん、遠慮なくなんでも使ってね」
「はあ……」
一通り何でも揃ったキッチンにぽかんとしてしまった。オーブンや食洗機、ディスポーザーも当然のように備え付けられている。