凍った花がとけるとき
大きなダイニングテーブルで、届いた夕飯を食べていると、
「明日、車出すから三崎さんの家からとりあえず必要なものを持ってこよう。そしたらしばらくここにいられるでしょ」
副社長の中では、しばらくここで過ごすのは決定事項のようだ。どうしたものかと黙り込む。
「とにかく、少しでも不安がある状態で、一人にはできない。実際何か問題があってからじゃ遅いし。でも今のままじゃ警察が動いてくれるとも思えないし」
「今日は驚きましたけど、別に危害を加えられたわけでもないですが……」
「でも怖い思いしたでしょ。俺、三崎さんが不安になるようなことは絶対にいやだ」
「それは……」
「気まずかったら、俺が理由つけてしばらく実家帰るし」
「いえ、それは申し訳ないので……」
「でも相手の出方もわからないし、家まで来られたわけじゃないから今引っ越しても解決しないし、まずは接触しないことだと思うんだよね」
そう言われれば、返す言葉はない。それでも頷くのを躊躇っていると、
「まあとにかくしばらく様子を見よう。それから考えても遅く無いでしょ」
そう言い切ると、副社長はその話はおしまい、とばかりに箸を手に取った。
夕飯を食べて、部屋のお風呂に入らせてもらう。ゲストルームだからか、シャンプーやコンディショナー、アメニティまで備えてあった。まるでホテルだ。引っ越してきたときに誰かが泊まりにくることを想定して揃えてもらったらしい。彼女かな、と思ったけれど、彼女だったらむしろこの部屋は使わないだろうから、純粋にお客様が来たことがあるのかもしれない。
着替えだけ、副社長の新品のTシャツを借りた。なにかのイベントで配布されたものらしい。大きいからワンピースがわりになる。洗面所には乾燥機まであったので、着ていた服は洗わせてもらった。これでとりあえず明日は困らないだろう。
ふかふかのベッドに寝転んで、真っ白い天井を見上げる。
ここまで副社長にお世話になっていいんだろうかという思いと、誠治に会ってしまった動揺で、考えても落ち着かない。
何より、自分のことを好きだと言ってくれた副社長のことを利用しているようで、自己嫌悪が募った。それでもひさしぶりに見た誠治の顔に動揺していたのだろう、あっという間に睡魔に襲われて眠りに落ちていた。