凍った花がとけるとき
 外で待っていてもらうわけにもいかないので、副社長にも一緒に室内に入ってもらう。すごく綺麗な状態ではないけれど、そこそこ片付けておいてよかった。
 とりあえずお湯を沸かしてドリップコーヒーを淹れた。副社長は「手伝おうか?」と言ってくれたけれど、手の届かない場所にしまってあるものもないので、座って待っていてもらうことにした。ソファすらない部屋なので、「狭くて申し訳ないですが」と言ってベッドに腰掛けてもらうしかなかった。

 スーツケースとボストンバッグに、当面の着替えや化粧品などを入れていく。冬服は嵩張るけれど、あとは勉強に使っているノートパソコンや充電器もしまうと、わりと簡単に準備ができた。

「足りないものはまた取りにきたらいいよ。いつでも車出すし」

 結局、迷惑をかけていると思いながらも、流されるように副社長の厚意に甘えてしまっている。

 でも実際、一人で再び現れた誠治と対面する勇気は出なかったし、外を歩いたことでそれを痛感した。
 そういえば、と冷蔵庫を開けた。作り置きしておいたおかずが残っている。冷凍してあるものはまだしも、冷蔵庫の食材は処分していった方がいいだろう。幸い、ゴミはいつでも出せるから、ついでにまとめておこう。ハンバーグや常備菜などのタッパーを取り出していると、副社長が顔を覗かせた。

「え、それ三崎さんが作ったの?」
「はい、そうですけど……処分しておこうかと」
「え!?」

 副社長は大げさでは、というような声を上げた。

「もったいないよ。うちに持っていこうよ。食べたい」
「そこまでするほどのものでは」
「なんで。大体処分するなんてもったいない。だめだよ、食べ物は大事にしなきゃ」

 それは、その通りなんですが。

「でも副社長、今日買い物にも行きたいって……」
「まず荷物と食べ物を一度家に置いて、それから買い物にいけばいいよ。まだ全然時間あるし。ね?」

 そう言われてしまえば逆らうことでもない。せっかくなら、と冷蔵庫に残っていた野菜もタッパーと一緒に紙袋に入れた。
 まあ今晩の夕飯分くらいの量はあるだろう。
 最後に、ベッドに置いてあったクッションを手に取った。副社長からもらったブルーのクッション。ふわふわでお気に入りだ。

「それも連れて行ってくれるの?」
「……はい」

 頷けば、嬉しそうに破顔する。間近で見た副社長の笑顔に、どきりと心臓が音を立てた。
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