凍った花がとけるとき
6.守りたい
以前お世話になった会社の重役に頼まれて行った講演会の会場で、初めてその男を見たとき、端的に言えばなんかいけすかないな、と思った。
平均的な男性よりすらりとした体躯に、清潔にまとめられた髪、着ているスーツのセンスだって悪くないのに、なぜか頭の中に「気をつけろ」と警鐘が鳴り響いた。
講演の後、熱心に質問にきてくれた若手社員と話をしながら、そっと窺い見ていると、その男は三崎さんに話しかけていた。
咄嗟に、自分の眉間に皺が寄るのを自覚した。二人の距離が、近い。
男がぐっと身体を三崎さんに寄せたように見えた。
ただでさえ面白くないのに、三崎さんの横顔が強張っているようで気になった。彼女は仕事中に、自分の気分や調子を顔に出すことはしないひとだ。
声をかけようかと迷っていた瞬間、男の手が三崎さんの肩に触れた。まるで自然に、普段からそうしているかのように肩を掴んだのを目にしたとたん、身体が動いていた。
「すみません、私の部下がなにか?」
自分で思っていたより硬い声だった。男の手が離れた瞬間に、三崎さんを引き寄せる。
男の目が驚きに見開かれている。俺と三崎さんを交互に見て、何を思ったのだろう。
「真瀬さん……! すみません、こいつとは前に――」
「副社長! 車を回して参りますので、少々お待ちいただけますか」
強張った三崎さんの声が響いた。どうやら話していたい相手ではないようだ。それがわかって、自分の全身からほっと力が抜けるのを感じた。
「ありがとう。そろそろ行かないとね」と男の言葉を遮ったまま踵を返した。
向こうから「紗央里!あとで連絡するから!」と大きな声が響いて、三崎さんの背が震える。
「……大丈夫?」
こわばった顔の彼女にそう聞けたのに、あの男については何も聞けなかった。付き合っていたのだろうか。それとも、今でも――。
どちらにせよ、あいつが、三崎さんの近くにいた男なのだろうと予想がついたから。
でもそんなことを怖がらずに聞き出せば良かったのだと、すぐに後悔することになる。
平均的な男性よりすらりとした体躯に、清潔にまとめられた髪、着ているスーツのセンスだって悪くないのに、なぜか頭の中に「気をつけろ」と警鐘が鳴り響いた。
講演の後、熱心に質問にきてくれた若手社員と話をしながら、そっと窺い見ていると、その男は三崎さんに話しかけていた。
咄嗟に、自分の眉間に皺が寄るのを自覚した。二人の距離が、近い。
男がぐっと身体を三崎さんに寄せたように見えた。
ただでさえ面白くないのに、三崎さんの横顔が強張っているようで気になった。彼女は仕事中に、自分の気分や調子を顔に出すことはしないひとだ。
声をかけようかと迷っていた瞬間、男の手が三崎さんの肩に触れた。まるで自然に、普段からそうしているかのように肩を掴んだのを目にしたとたん、身体が動いていた。
「すみません、私の部下がなにか?」
自分で思っていたより硬い声だった。男の手が離れた瞬間に、三崎さんを引き寄せる。
男の目が驚きに見開かれている。俺と三崎さんを交互に見て、何を思ったのだろう。
「真瀬さん……! すみません、こいつとは前に――」
「副社長! 車を回して参りますので、少々お待ちいただけますか」
強張った三崎さんの声が響いた。どうやら話していたい相手ではないようだ。それがわかって、自分の全身からほっと力が抜けるのを感じた。
「ありがとう。そろそろ行かないとね」と男の言葉を遮ったまま踵を返した。
向こうから「紗央里!あとで連絡するから!」と大きな声が響いて、三崎さんの背が震える。
「……大丈夫?」
こわばった顔の彼女にそう聞けたのに、あの男については何も聞けなかった。付き合っていたのだろうか。それとも、今でも――。
どちらにせよ、あいつが、三崎さんの近くにいた男なのだろうと予想がついたから。
でもそんなことを怖がらずに聞き出せば良かったのだと、すぐに後悔することになる。