凍った花がとけるとき
 見合いを断ってから、実家に呼び出されることが増えた。やれ夕食を一緒に食べようだの買い物に行くから付き合えだの、主に母親が原因だ。
 六十になるまで働いていた母は、仕事を辞めてここ数年、退屈で仕方ないらしい。父はいまだに現役だから、そのギャップもあるのだろう。やっと俺の弱みを掴んだとばかりに、脅すように呼び出される。
 今日も、明日が休みだから泊まっていけと言われて、断って夕飯だけ食べに帰ると伝えていた。泊まったら明日も出かけようと言い出すのは目に見えている。せっかくの休日が潰れるのは勘弁だった。

 それでも家に来られるよりはマシだから仕方ないと、会社近くの店で手土産を買って車に戻ったところで、車内のスピーカーが電話の着信を告げる。車の画面に映し出されたのは、知らない番号。仕事ならある意味ありがたいが、と思いながら出ると、まるで泣いているような掠れた吐息が聞こえてきた。

 まさか、という思いがそのまま口に出ていた。

「……三崎さん?」
「副社長……っ」

 縋るような声は切羽詰まっていて、背筋が冷えた。

「たすけてください……!」

 混乱した三崎さんを落ち着かせながら居場所を聞いて、すぐに向かった。

「待ち伏せ、されて……!」

 どうやら昼間の男が三崎さんを待ち構えていたらしい。混乱して要領を得ない説明からそれだけ把握した。
 普段冷静な彼女の取り乱した様子に、心臓が押しつぶされそうになる。こんなことになるなら、あの時、もっときちんと話を聞いておくべきだった。
 自分のくだらないプライドなんか無視して、彼女を守るべきだったのに。

 そう思うと、三崎さんがいる場所への十分かそこらの道のりが永遠にも感じられた。

 スーパーの地下駐車場に車を停め、転がるように走り出した。

 涙目で柱に寄りかかる三崎さんを見つけて、安堵すると同時に、守らなければという思いがいっそう強くなった。
 座り込んだ三崎さんの肩にそっと触れる。嫌がられず、頼るように頬を寄せられて、こんな時だというのに胸が温かくなる。
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