凍った花がとけるとき
駐車場に向かいながら、あの男について聞いた。
婚約していた、と聞いて冷や水をぶっ掛けられたように息が詰まった。それでも婚約を破棄され、転職したと聞いて、なんとも言えず安堵してしまう自分もいた。そしてなにより、彼女に惹かれた理由もわかった気がした。
「……ちょっと、納得がいったかも」
「え……?」
「三崎さんが面接に来たとき、何か切羽詰まってるなって感じたから。でもその分仕事に打ち込んでくれるかなと思って、採用を決めたんだ」
「そう、だったんですね」
「うん。実はもう少し年齢が上の男性の方がいいんじゃないかって話も出てたんだよ。でも自分の直感を信じた」
「じゃあ、副社長のおかげですね。わたしが今こうして働けているのも」
「それは三崎さん自身の力だと思うけど……」
「今でも婚約破棄になったときの衝撃は残ってますけど、気持ちのうえでは落ち着いてるんです。仕事が楽しいから、新しい道を見つけられたといいますか」
「そっか」
「はい、だから、ぜんぶ副社長のおかげなんです」
真っ直ぐに見つめられて、顔に熱が昇ってくるのを感じた。三崎さんの顔を直視できない。でも伝えておきたいと思った。
「こちらこそ。三崎さんがいてくれて本当に助かってる。仕事のうえでも、それ以外でも三崎さんに出会えて本当に良かった。俺の気持ちは変わらないから」
三崎さんは曖昧に笑う。もちろん、今の彼女に返事を強要するつもりはなかった。
というか、今のいまならフラれる未来しか見えない。だから。
「で、提案なんだけど。三崎さん、しばらくウチに来たら?」
「……はい?」
下心なんてまったくないと神に誓えと言われたら、ちょっと躊躇うかもしれない。
けれど三崎さんが心配だというのは本当だ。彼女に不安や恐怖を感じさせたくないし、何より安心していてほしい。少しの気掛かりでも取り除きたい。ただ、三崎さんを甘やかしたいと思うのは、好きだからなのだろう。
とはいえ根が真面目な彼女が、簡単に頷いてくれるとは思っていなかった。だから申し訳ないけれど、なし崩し的に三崎さんがうちに身を寄せてくれるようにし向けた。あの男――浜田誠治がどんなつもりで三崎さんに近づいてきたのかわからない今、ひとりで行動するのが危険だと思ったのも事実だ。
それに彼女がこれだけ恐怖を感じるのは、やはり向こうの態度がどこか異様なんだと思う。
普通に再会しただけではない、なにか執着のようなものが感じられる。
そんな状態で、一人の家に帰せるわけがない。
一緒に家に帰って夕飯を食べる。広い部屋は残念だけど、彼女の負担を考えればちょうど良かったなと思っていられたのは、それまでだった。
風呂に入ってダイニングで水を飲んでいると、俺が使うまで待っていたのだろう、三崎さんが洗面所で洗濯機をまわす音が聞こえた。なかなか出てこないから大丈夫かな、と洗面所を覗いて、すぐに後悔した。
パジャマがわりに貸したTシャツを一枚着ただけの姿は、普段絶対見ることはないだろうミニスカートくらいの丈しかなく、白い太ももが目に飛び込んできた。まるで着替え中の部屋を覗いてしまったような気まずさを覚えて、すぐにダイニングに引き返した。ばくばくと心臓が鳴っている。中学生か。
きっと鉢合わせしないように三崎さんは様子を伺っていたに違いない。俺もとりあえず、明日の朝までは余計な行動を取らないようにと心に決めた。
彼女の身を守るために家に招いたのだ。このままじゃ、その信頼を裏切ってしまいそうで怖い。
婚約していた、と聞いて冷や水をぶっ掛けられたように息が詰まった。それでも婚約を破棄され、転職したと聞いて、なんとも言えず安堵してしまう自分もいた。そしてなにより、彼女に惹かれた理由もわかった気がした。
「……ちょっと、納得がいったかも」
「え……?」
「三崎さんが面接に来たとき、何か切羽詰まってるなって感じたから。でもその分仕事に打ち込んでくれるかなと思って、採用を決めたんだ」
「そう、だったんですね」
「うん。実はもう少し年齢が上の男性の方がいいんじゃないかって話も出てたんだよ。でも自分の直感を信じた」
「じゃあ、副社長のおかげですね。わたしが今こうして働けているのも」
「それは三崎さん自身の力だと思うけど……」
「今でも婚約破棄になったときの衝撃は残ってますけど、気持ちのうえでは落ち着いてるんです。仕事が楽しいから、新しい道を見つけられたといいますか」
「そっか」
「はい、だから、ぜんぶ副社長のおかげなんです」
真っ直ぐに見つめられて、顔に熱が昇ってくるのを感じた。三崎さんの顔を直視できない。でも伝えておきたいと思った。
「こちらこそ。三崎さんがいてくれて本当に助かってる。仕事のうえでも、それ以外でも三崎さんに出会えて本当に良かった。俺の気持ちは変わらないから」
三崎さんは曖昧に笑う。もちろん、今の彼女に返事を強要するつもりはなかった。
というか、今のいまならフラれる未来しか見えない。だから。
「で、提案なんだけど。三崎さん、しばらくウチに来たら?」
「……はい?」
下心なんてまったくないと神に誓えと言われたら、ちょっと躊躇うかもしれない。
けれど三崎さんが心配だというのは本当だ。彼女に不安や恐怖を感じさせたくないし、何より安心していてほしい。少しの気掛かりでも取り除きたい。ただ、三崎さんを甘やかしたいと思うのは、好きだからなのだろう。
とはいえ根が真面目な彼女が、簡単に頷いてくれるとは思っていなかった。だから申し訳ないけれど、なし崩し的に三崎さんがうちに身を寄せてくれるようにし向けた。あの男――浜田誠治がどんなつもりで三崎さんに近づいてきたのかわからない今、ひとりで行動するのが危険だと思ったのも事実だ。
それに彼女がこれだけ恐怖を感じるのは、やはり向こうの態度がどこか異様なんだと思う。
普通に再会しただけではない、なにか執着のようなものが感じられる。
そんな状態で、一人の家に帰せるわけがない。
一緒に家に帰って夕飯を食べる。広い部屋は残念だけど、彼女の負担を考えればちょうど良かったなと思っていられたのは、それまでだった。
風呂に入ってダイニングで水を飲んでいると、俺が使うまで待っていたのだろう、三崎さんが洗面所で洗濯機をまわす音が聞こえた。なかなか出てこないから大丈夫かな、と洗面所を覗いて、すぐに後悔した。
パジャマがわりに貸したTシャツを一枚着ただけの姿は、普段絶対見ることはないだろうミニスカートくらいの丈しかなく、白い太ももが目に飛び込んできた。まるで着替え中の部屋を覗いてしまったような気まずさを覚えて、すぐにダイニングに引き返した。ばくばくと心臓が鳴っている。中学生か。
きっと鉢合わせしないように三崎さんは様子を伺っていたに違いない。俺もとりあえず、明日の朝までは余計な行動を取らないようにと心に決めた。
彼女の身を守るために家に招いたのだ。このままじゃ、その信頼を裏切ってしまいそうで怖い。