凍った花がとけるとき
 翌日もやけに早く目が覚めてしまった。壁をいくつも挟んでいるとはいえ、同じ家に三崎さんがいると思うとどうにも緊張してしまう。
 寝起きの彼女が昨日の格好のまま出てきたらどうしようかと思って、マンションの一階に入っているパン屋に行ってみたりした。存在は知っていたものの、ほとんど入ったことのない店内で、パンひとつ選ぶのに凄まじく時間を使ってしまったけれど、結果的に朝食を買えたから良いこととする。

 結局、部屋を出てきた彼女は昨日洗濯したらしい服を着ていたから、すべていらぬ心配だったわけだけれど。

 その後、車で三崎さんの家に向かった。彼女の家の目の前は通りが狭いので、一本手前でコインパーキングを見つけて車を停める。荷物もあるだろうから、もともと家まで着いていくつもりだったけれど、拒否されなかったので良かった。
 ただ、辺りを見回す様子から、不安が伝わってきた。手を握りたい気持ちに駆られるけど、ぐっと押し留める。

 荷物をまとめるのを手伝うといった申し出も断られ、コーヒーを淹れてもらい、なんのためについていったんだか不安になってきたところで、三崎さんが台所で冷蔵庫をぱたぱたと開けている。どうしたのかと聞けば、せっかく作った料理を処分しようとしていたので、慌てて止めた。ちらりと見えたタッパーの中身はとても美味しそうだったし、本当にあわよくば、食べたかった。三崎さんの手料理を。

 なんとか言いくるめ、まとめた荷物を手分けして車まで運ぶ。何度も忘れ物ないかなと不安そうに呟く三崎さんに、「いつでも車出すから」と言って、いったん家に戻った。

 彼女に貸した部屋まで荷物を運び入れ、せっかくだから荷解きまでしてしまうようにすすめた。でも、と躊躇っていたけれど、読みたい本があるから大丈夫と言って書斎に籠ることにする。
 じゃあ少しだけ、といって荷物を片付け始めたので、ダイニングに戻って冷蔵庫を開けた。なかに、三崎さんの家からやってきたタッパーが三つ入っている。食べられるのが楽しみで、思わず眺めてしまった。
 書斎から、途中で手が止まっていたビジネス書を持ち出し、リビングのソファで読み始める。
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