凍った花がとけるとき
あまりに食材がないので、とりあえず当面の食料を買い込んだ。といっても俺には何が必要なのかわからないので、三崎さんが食べたいものを選んでもら
う。
「わたしのために買うのはちょっと…」と渋るので、朝ご飯は一緒に食べるからといってパンやヨーグルト、チーズなどを選んだ。
「わたし、大したもの食べてませんけど、じゃあ朝ご飯は2人分用意しますね」と言ってもらって、内心飛び上がるほど喜ぶ。
「そんな期待に応えられるとは思えないんですが」
「元々、買ったパン一個しか食べてなかった俺に言う? お皿に乗っただけで十分だよ」
そう言えば、くれぐれも期待はしないでくださいね、と笑っていた。
足りないものがあったらマンションに出入りしている宅配スーパーで頼めばいい、ということにして、少し遅めの昼食にパスタを食べて、帰宅した。
買ってきたものをしまっていく姿を見ていると、どうしてもにやけてしまう。
馬鹿みたいだけれど、まるで新婚生活みたいだな、と想像して。
豆をしまいながら、「コーヒー飲みます?」と聞いてくれたので、勢い込んで頷いた。
キッチンの片隅にしまわれたコーヒーメーカーを見て、三崎さんは感嘆の声を上げている。
「すごい、エスプレッソマシーンもある。全然使ってないなんて勿体無いです」
「じゃあ三崎さんが使ってくれたらきっと喜ぶよ」
「ふふ。わたし、学生時代カフェでバイトしてたんですよ。今でも美味しく淹れられるかなあ」
もしそのカフェを知っていたら、俺は入り浸っていただろう。
「そういえば、今日の夕飯は本当に持ってきたおかずでいいんですか?」
「もちろん」
「うーん、じゃあちょっと作り足していいですか、流石にあれだけだと……」
「嬉しいけど、気は遣わないでね。俺、休みの日で会食もないと、ほんと全然食べなくても平気だし」
「え? お腹すかないんですか?」
「うーん、空いたら近くのお店行って食べるけど、面倒なときはカップラーメンとか……」
と言うと、だんだんと三崎さんの目が吊り上がっていく。
「だめですよ、ちゃんと栄養の良いもの食べないと! ただでさえ仕事で忙しくて不規則なんですから」
「う……」
「だから最近、ご実家に呼ばれてるんじゃないですか。お母様が心配されて」
「それもあるかもしれない……」
三崎さんが秘書モードになってしまった。それでも買ってきたものと持ってきた食材を見比べながら、何を作ろうかなと考えている様子をついついだらけきった顔で眺めてしまう。
「もう、気になるからあんまり見ないでください」
「えー、残念。でもまあ仕方ない、ちょっと仕事してる」
そう言うとはっと三崎さんが顔をこわばらせた。
「大丈夫。毎週半日は何も考えずに休むようにしているし。あ、でも明日は海外とのオンラインミーティングがあるから、ちょっと書斎に籠るかも」
「リビング使ってください、わたしは部屋に」
「ううん。いつも書斎でやるって決めてるから大丈夫。でも出かけたくなったら心配だから……」
「大丈夫ですよ、特に用はないので」
「まあ何かあったら声かけて。ちょっとくらい大丈夫だから」
「でも……」
「大丈夫。相手だって、秘書も休日出勤させられて大変だなあって思ってくれるよ」
「じゃあ万が一なにかあったらノックします」
多分何があっても我慢してしまうのだろう。けれど俺の顔を立てて頷いてくれる三崎さんに、いつか本当に遠慮なく彼女の本心を伝えてもらえるようになりたい、と思った。
う。
「わたしのために買うのはちょっと…」と渋るので、朝ご飯は一緒に食べるからといってパンやヨーグルト、チーズなどを選んだ。
「わたし、大したもの食べてませんけど、じゃあ朝ご飯は2人分用意しますね」と言ってもらって、内心飛び上がるほど喜ぶ。
「そんな期待に応えられるとは思えないんですが」
「元々、買ったパン一個しか食べてなかった俺に言う? お皿に乗っただけで十分だよ」
そう言えば、くれぐれも期待はしないでくださいね、と笑っていた。
足りないものがあったらマンションに出入りしている宅配スーパーで頼めばいい、ということにして、少し遅めの昼食にパスタを食べて、帰宅した。
買ってきたものをしまっていく姿を見ていると、どうしてもにやけてしまう。
馬鹿みたいだけれど、まるで新婚生活みたいだな、と想像して。
豆をしまいながら、「コーヒー飲みます?」と聞いてくれたので、勢い込んで頷いた。
キッチンの片隅にしまわれたコーヒーメーカーを見て、三崎さんは感嘆の声を上げている。
「すごい、エスプレッソマシーンもある。全然使ってないなんて勿体無いです」
「じゃあ三崎さんが使ってくれたらきっと喜ぶよ」
「ふふ。わたし、学生時代カフェでバイトしてたんですよ。今でも美味しく淹れられるかなあ」
もしそのカフェを知っていたら、俺は入り浸っていただろう。
「そういえば、今日の夕飯は本当に持ってきたおかずでいいんですか?」
「もちろん」
「うーん、じゃあちょっと作り足していいですか、流石にあれだけだと……」
「嬉しいけど、気は遣わないでね。俺、休みの日で会食もないと、ほんと全然食べなくても平気だし」
「え? お腹すかないんですか?」
「うーん、空いたら近くのお店行って食べるけど、面倒なときはカップラーメンとか……」
と言うと、だんだんと三崎さんの目が吊り上がっていく。
「だめですよ、ちゃんと栄養の良いもの食べないと! ただでさえ仕事で忙しくて不規則なんですから」
「う……」
「だから最近、ご実家に呼ばれてるんじゃないですか。お母様が心配されて」
「それもあるかもしれない……」
三崎さんが秘書モードになってしまった。それでも買ってきたものと持ってきた食材を見比べながら、何を作ろうかなと考えている様子をついついだらけきった顔で眺めてしまう。
「もう、気になるからあんまり見ないでください」
「えー、残念。でもまあ仕方ない、ちょっと仕事してる」
そう言うとはっと三崎さんが顔をこわばらせた。
「大丈夫。毎週半日は何も考えずに休むようにしているし。あ、でも明日は海外とのオンラインミーティングがあるから、ちょっと書斎に籠るかも」
「リビング使ってください、わたしは部屋に」
「ううん。いつも書斎でやるって決めてるから大丈夫。でも出かけたくなったら心配だから……」
「大丈夫ですよ、特に用はないので」
「まあ何かあったら声かけて。ちょっとくらい大丈夫だから」
「でも……」
「大丈夫。相手だって、秘書も休日出勤させられて大変だなあって思ってくれるよ」
「じゃあ万が一なにかあったらノックします」
多分何があっても我慢してしまうのだろう。けれど俺の顔を立てて頷いてくれる三崎さんに、いつか本当に遠慮なく彼女の本心を伝えてもらえるようになりたい、と思った。