凍った花がとけるとき
三崎さんが用意してくれた夕飯はとてもおいしかった。
ひと通り揃っていた皿やカトラリーが、正しく使われて喜んでいる気がする。
ハンバーグとマッシュポテト、グリーンサラダ、キャロットラペ、蕪の味噌汁に白いご飯。
「なんだか和洋折衷になっちゃいました」と笑っていたけれど、家庭的な温かい味がして最高だった。珍しく、ご飯をお代わりしてしまった。
「すっごく美味しい。三崎さんは料理もできるんだね」
「簡単なものだけです。一応……」
そう言うと表情が翳ったので、結婚に向けて練習していたのかなと思い至った。それにしても婚約を破棄するなんて、バカのすることだと思う。三崎さんを手放すなんて、全く見る目がない。
だけどその分再会して執着するのもわかってしまう気がした。それだけ彼女は魅力的だから。
「あの、副社長。しばらく……というのも申し訳ないので、いったんお世話になる期間を決めたいのですが」
食べ終わったとたん、三崎さんはそう切り出した。ぎゅっと握られた手が、覚悟を感じさせる。
「期間は、決めなくていいと思う。相手の出方もわからないし」
「でも……」
「昨日も言ったけど、三崎さんに怖い思いや嫌な思いをしてほしくない。僕にとってはそれが一番の願い。それに、もしこれで三崎さんが何か事件に巻き込まれたら、会社としてもよくないしね。従業員の危険に気付きながら放置していたなんて言われたら、大問題になる。今の世の中、何が原因で叩かれるかわからないし」
それらしい理由を言い連ねるけれど、それでも三崎さんの表情は晴れなかった。
「ただあまりに申し訳ないっていう気持ちが消えないなら、いくつか決めておこう。もしまたあの男が現れて、接触を図ってくるようなら、その時は警察に相談する。対処をもう一つ上の段階にきちんと移す」
「はい」
「あとは……そうだな、俺に朝ごはんを用意して」
「え?」
「家で食べて出れば渡辺さんに怒られないし。それ以外の食事はその時々で考えよう。ハウスキーパーは変わらず頼むつもりだから、三崎さんの分はまた食事も頼んでもいいし。そしたら会食ないときは俺も食べられるし」
「それって、あまりルールにならないんじゃ……」
「あとは会社でやってる書類整理、家にある分も頼めるところは頼んでもいいかな。そんなに多くは溜めてないんだけどね……」
「やります」
「あーでも時間外勤務になるからやっぱりだめかな」
「いえ、やらせてください。ていうか書斎の棚、気になってしかたなかったです」
という三崎さんはまた秘書の顔になっている。
「あー、気づいた?」
「当然です。間に新聞も挟まっているように見受けられました」
「そう、後で読み返すかもって思って、そのまま積んじゃってるんだよね……」
ぴくりと三崎さんの眉が上がっていく。
「会社と同じようにファイリングすればいいんですよね?」
「はい……お願いします」
素直に頭を下げれば、三崎さんがくすりと笑う。
「ありがとうございます。いろいろ考えてくださって」
「そんなことない。会社でもあんなに頼ってるのに、家でもこんなんで情けないなあって思ってるところ」
「副社長はただでさえお忙しいんですから、頼れるところは頼ってくださった方が嬉しいです。その方がわたしも気が楽です」
「うん、じゃあお互い助け合っていこうね」
そう言って、俺はとりあえず束の間の同棲……ではなく同居生活を手に入れた。
ひと通り揃っていた皿やカトラリーが、正しく使われて喜んでいる気がする。
ハンバーグとマッシュポテト、グリーンサラダ、キャロットラペ、蕪の味噌汁に白いご飯。
「なんだか和洋折衷になっちゃいました」と笑っていたけれど、家庭的な温かい味がして最高だった。珍しく、ご飯をお代わりしてしまった。
「すっごく美味しい。三崎さんは料理もできるんだね」
「簡単なものだけです。一応……」
そう言うと表情が翳ったので、結婚に向けて練習していたのかなと思い至った。それにしても婚約を破棄するなんて、バカのすることだと思う。三崎さんを手放すなんて、全く見る目がない。
だけどその分再会して執着するのもわかってしまう気がした。それだけ彼女は魅力的だから。
「あの、副社長。しばらく……というのも申し訳ないので、いったんお世話になる期間を決めたいのですが」
食べ終わったとたん、三崎さんはそう切り出した。ぎゅっと握られた手が、覚悟を感じさせる。
「期間は、決めなくていいと思う。相手の出方もわからないし」
「でも……」
「昨日も言ったけど、三崎さんに怖い思いや嫌な思いをしてほしくない。僕にとってはそれが一番の願い。それに、もしこれで三崎さんが何か事件に巻き込まれたら、会社としてもよくないしね。従業員の危険に気付きながら放置していたなんて言われたら、大問題になる。今の世の中、何が原因で叩かれるかわからないし」
それらしい理由を言い連ねるけれど、それでも三崎さんの表情は晴れなかった。
「ただあまりに申し訳ないっていう気持ちが消えないなら、いくつか決めておこう。もしまたあの男が現れて、接触を図ってくるようなら、その時は警察に相談する。対処をもう一つ上の段階にきちんと移す」
「はい」
「あとは……そうだな、俺に朝ごはんを用意して」
「え?」
「家で食べて出れば渡辺さんに怒られないし。それ以外の食事はその時々で考えよう。ハウスキーパーは変わらず頼むつもりだから、三崎さんの分はまた食事も頼んでもいいし。そしたら会食ないときは俺も食べられるし」
「それって、あまりルールにならないんじゃ……」
「あとは会社でやってる書類整理、家にある分も頼めるところは頼んでもいいかな。そんなに多くは溜めてないんだけどね……」
「やります」
「あーでも時間外勤務になるからやっぱりだめかな」
「いえ、やらせてください。ていうか書斎の棚、気になってしかたなかったです」
という三崎さんはまた秘書の顔になっている。
「あー、気づいた?」
「当然です。間に新聞も挟まっているように見受けられました」
「そう、後で読み返すかもって思って、そのまま積んじゃってるんだよね……」
ぴくりと三崎さんの眉が上がっていく。
「会社と同じようにファイリングすればいいんですよね?」
「はい……お願いします」
素直に頭を下げれば、三崎さんがくすりと笑う。
「ありがとうございます。いろいろ考えてくださって」
「そんなことない。会社でもあんなに頼ってるのに、家でもこんなんで情けないなあって思ってるところ」
「副社長はただでさえお忙しいんですから、頼れるところは頼ってくださった方が嬉しいです。その方がわたしも気が楽です」
「うん、じゃあお互い助け合っていこうね」
そう言って、俺はとりあえず束の間の同棲……ではなく同居生活を手に入れた。