凍った花がとけるとき
「え……っ? 副社長……!?」
「三崎さん! 大丈夫!?」

 人目を憚らずそっと抱き寄せられる。耳元で深く吐かれた息に、胸がじんわりと温かくなった。

「ごめんね。着いていけばよかった」
「大丈夫です……あの……」

 今エレベーターホールにいるのは帆足くんだけだけれど、いつ誰がやってくるかわからない。やんわりと副社長から距離を取ったけれど、本人は動じる様子もない。

「報告聞いて驚いた。帆足くんも、ありがとう」
「あ、はい……」

 帆足くん、なんで副社長がお礼言うんだろうって思ってるに違いない。
 ああ後で会ったときに説明しなければ、と思うと少し憂鬱になった。それでもやってきたエレベーターに乗る時、そっと背中に添えられた手の温かさに、やっと強張りがほどけてゆくような気がした。

 執務室に戻るなり、副社長は警備室に電話して、誠治の特徴を伝え、見回りを強化するように指示をだした。それから今晩の会食もリスケしようとするので慌てて止めた。

「……心配だから、日を改めるだけだよ」
「大丈夫です。渡辺さんにいつものように送ってもらいますから……」
「でも」
「それに、今日の今日でまた来ることはないと思うんです。だから逆に明日のほうが……」と言えば、副社長は大きくため息を吐いた。

 明日の夜は何の予定も入っていないはず、とわたしが頭の中でスケジュールと相談したことに気づいたのだろう。

「……わかった。じゃあ定時になったらすぐ送らせるから、オレはその後で……」
「あ、大丈夫です。わたし社内でちょっと用事があるので、先に副社長が向かってください。そのあと渡辺さんとこちらで連絡取り合いますから」
「そうなの? そんなに仕事たまってた?」
「あ、違います。仕事じゃなくて。ちょっと帆足くんと、」
「……は?」

 副社長の声が、少し低くなった。

「あ、いやさっきのこと、ちゃんと説明すると約束してまして。助けてもらったので……」

 そう言うと、副社長は顎に手を当てて何かを考え込むようにじっとしている。

「……わかった。急いで帰るから、ちゃんと家で待っててね」
「……? はい、もちろん、さすがに会食帰りの副社長より遅くなることはないと思いますし」

 頷けば、困ったように笑って、くしゃっと頭を撫でられた。

「約束だよ。絶対」
「はい、わかりました」

 これだけ副社長に心配をかけておいて、出歩く勇気なんてない。深く頷くと、副社長は小さく息を吐いて「くれぐれも気をつけて」と念を押した。
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