凍った花がとけるとき

9.好き

 仕事が終わって、帆足くんとカフェスペースで待ち合わせた。
 飲み物やお菓子の自販機と、テーブルと椅子が数セット置かれた簡易な休憩スペースだ。
 昼間は気分転換に訪れる社員がいるみたいだけれど、終業後はさすがに静かだった。

「ごめん、お待たせ」

 紙コップの紅茶を片手に窓の外を眺めていると、少し遅れて帆足くんがやってきた。

「全然大丈夫。ていうか残業じゃなかった? 平気?」

 そう尋ねると、帆足くんは肩を竦める。

「正解。残業になった。でもその前に休憩は必要だからちょうど良いよ」

 そう言って自販機に小銭を入れる。がこんと音がして、缶コーヒーが転がりでてきた。
 タブを開ける音が聞こえないまま、帆足くんは、

「聞きたいこともあるけど、先に言うね。俺、三崎さんのことが好き」

 真っ直ぐに目線を合わせて、単刀直入に伝えられた言葉に、胸の奥がじんと痺れた。
 帆足くんはいつも頼りになって、優しくて、今日だって真っ先に駆けつけてくれた。
 でも――。

 今までだったら、誰とも付き合う気はない、と断っていただろう。

「……ごめんなさい。すごく、嬉しいんだけど」
「うん」
「好きなひとが、いて」
「……うん」
「そのひとのことしか、考えられない」

 そう口にすれば、なんでさっさと認めてしまわなかったんだろうと思うほど、あっさりと見つかった気持ちだった。

「そっか。その人とか付き合えそうなの……?」
「え……どうだろ」

 副社長の気持ちが変わってしまっていなければ。ずっと一緒にいることはできないかもしれないけれど……。

「じゃあその人に振られたら俺のところに来てくれる?」
「え!?」
「なんてね、嘘だよ。そっか、でも向こうも絶対好きでしょ、三崎さんのこと」
「え!?」
「え、違うの? 副社長だよね?」

 あっさりと言い当てられて、口をぱくぱくと開けてしまう。

「見てたらわかるし。ていうか俺がいつから、どれだけ三崎さんのこと見てたか、教えてあげようか?」
「う……」

 もうすべてバレている、ということがわたしの口を滑らかにさせた。誰にも話せず、心の中にたまっていたからかもしれない。

「でも副社長、最初はすごいぐいぐい来たのに、今全然で。一緒に家にいても興味なさそうだし」
「え、ちょ、ちょっと待って。なに一緒に家にいてって」

 帆足くんに聞き返されて慌てて口を押さえる。

「実は……」
< 46 / 62 >

この作品をシェア

pagetop