凍った花がとけるとき
 昼間にやってきた誠治につきまとわれていることを含めて、今副社長の家にお世話になっていることを話すと、帆足くんはふーっと長いため息を吐いた。

「いや、やっぱすごいわ副社長」
「え……?」
「三崎さんの安全を一番に考えて、我慢してるってことでしょ」
「そ、そうなのかな」
「そりゃそうでしょ。さっきだってあんなに焦ってるの見たことないし。んで、なんでそんないい感じなのに、まだ三崎さんはうだうだ言ってるの?」
「そ、それは……副社長は会社の後継者だし、わたしなんかには手の届かないひとで、」

 説明していくと、帆足くんの顔がどんどん険しくなっていく。

「俺、三崎さんのこと買い被ってたのかなあ」
「え」
「だって、最初から信じてあげないなんて、さすがに副社長がかわいそうだもん。今、三崎さんは人として副社長のことを心から信用しているわけでしょ。なのに、恋人になったら信用できなくなるの? それって、本当は副社長のことを信じていないってこと? 恋でも仕事でも、そのひと自体は変わらないんじゃないの?」

 次々と繰り出される言葉に、副社長とのこれまでのやりとりを思い出す。社内の隅々まで気を配り、仕事に一切妥協をしないひと。
 そんな副社長が、恋愛だけその場しのぎの言葉でやり過ごすなんてこと、ある?

「別にいいじゃん。副社長が浮気したら、全力で潰せばいいじゃん。なんだって理解してるんだから。秘書なんだから証拠だって掴み放題でしょ、三崎さんがいないと副社長はひとりじゃやっていけないって、社内のみんなが思ってるよ」
「そんなこと、全然……」
「このままだと、いつか本当に離れていくよ。それでいいの?」

 ま、俺はその方がいいけどね、と言って帆足くんは未開封の缶コーヒーを振っている。

「なんか告白したこと忘れそうだな」と言って笑う帆足くんに頭を下げた。
「ごめんなさい、なんか……こんな話聞かせて」
「別にいいよ。三崎さん、誰にも相談してなかったってことでしょ。一人でぐるぐる考えてたのを聞けて、身近な存在になれた気がするから満足」
「ありがとう……」
「ま、また弱気なこと言ったら、もう容赦しないから」

 そう言って眉を下げて笑う帆足くんに頷いて、わたしはカフェスペースを飛び出した。
 早く家に戻って、あの場所で、帰ってきた副社長と向き合いたかった。
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