あばかれ、奪われる〜セフレから始まる歪愛〜
きっと漣の家には今、他の女性がいるのだろう。だからわざわざ引き留めてくれた。
本当に優秀な人だ。入居者の立場を守りながら、私まで傷つかないようにしてくれている。後者は少し、自惚れ過ぎかな?
「…分かりました」
いずれにせよ、今は、行くべきではないだろう。
恥ずかしい気持ちをひた隠しにしながら、私は精一杯の笑顔を向けた。
「あの…私が来たことは、伝えないでもらえますか?」
「え…でも、」
「良いんです」
教えていただきありがとうございます。そう言い残して私はエントランスを出た。
周りなんて気にする余裕もなく、キャップを深く被り目を伏せて最寄り駅まで走った。そしてそのままお手洗いへ駆け込み、勢いよくドアを閉める。
「…っ、はは…」
乾いた声が漏れた。ああやっぱり、私の勘違いでしかなかった。漣にとって私は特別かもなんて、自惚れも甚だしかった。
私なんて彼にとってはその他大勢、他の女と変わりはない。
やっぱり、関わるんじゃなかった。あんな男。
こんな惨めな気持ちになるくらいなら。こんなに辛いなから。
割り切るなんてそんな器用なこと、私に出来るはずも無かったんだ。
とめどなく流れる涙は、私の意思ではもう、止めることは出来なかった。