あばかれ、奪われる〜セフレから始まる歪愛〜



「お待たせして申し訳ありません」


とびきり甘い声。会わない間に短くなった銀髪は根本まで綺麗に染め直され、緩くパーマがかけられていた。

咄嗟に目が合い、私は勢いよく逸らした。
言わずもがなその人は、私達の対面、代理店担当者の隣に立つと名刺を差し出しながら「霜月漣」と名乗った。

挨拶が終わり各々が席に着くと、代理店の人がにこやかに話題を切り出し話し始めた。


「先日のドラマ、素晴らしかったです。写真集も既に増版がかかかっているそうで」

「はい。ありがたい事に」

「その写真集ですが、全て彼のコーディネートだったと伺いました。ですので今回の案件も担当してもらおうと思い今日も彼に来てもらったんです」

「そうでしたか」


そう言う男性の人の言葉も遠くに聞こえていて、私の鼓膜は今や自分の心臓の音で占拠されている。
そんな中和泉さんは受け取った名刺を目の前に並べ、私に目配せをしながら背を叩く。


「改めて、うちの白雪を起用していただきありがとうございます」


そう言う和泉さんと共に頭を下げ、平静を装い背筋を伸ばした。

今回はアイスのCMで、事前に資料はもらっていて目は通していた。最終的な確認としての形だけ、スポンサーが直に私に会いたいと言うから設けられた場だ。そのせいか雰囲気はとてもフランクで、和やかだった。

連続で性格に難のある役が続いたのでイメージの払拭も兼ねての起用だったが、スポンサーは私を謙虚だと褒めてくれ、問題なく制作を進めるとありがたい言葉を貰えた。

その間私は愛想良く微笑んでいたのだが、漣には決して視線を向けなかった。何かを勘付かれるのが怖かった。

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